同議員連盟は昨年1月に活動開始。衛藤征士郎元衆院副議長が音頭を取り、元レーサーでもある三原じゅん子参院議員が事務局長。宮崎政久、笹川博義、神田憲次、島田佳和各衆院議員ら会員38人で発足した。元F1ドライバーの中嶋一貴氏、元世界GPライダーの平忠彦氏など日本を代表する4輪、2輪レース関係者がサポートしている。
「表向きには自動車文化の向上、モータースポーツを通じた社会貢献をうたっていますが、本音は日本の自動車、オートバイ輸出の底上げです。また、観光庁が推進するスポーツツーリズムの狙いとも合致する。東京五輪で日本を訪れる世界各国からの観光客を一過性で終わらせず、毎年アピールしようというものです。特にモータースポーツに興味を持ち始めた中国、東南アジアの富裕層を首都圏に呼び込もうという狙いがある」(全国紙経済部記者)
これまで日本で行われたF1レースは鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡)、岡山国際サーキット(岡山県美作市)と、いずれも市街地から遠く離れた場所で開催されてきた。「モナコ・グランプリのように都心で華やかな公道レースを」と望む声はかなりあったが、障害も多々あり、実現は夢のまた夢の話だった。
ネックになっていたのが“レースのための道路使用”と“騒音”。この問題がともにクリアされる見通しが立ったことで、にわかに法案成立に走りだしたのである。
「自動車に深くかかわる国の中で、公道レースが認められていない国は日本だけ。バブル期に大分県知事がモナコ・グランプリをまねて別府温泉の公道を使ってF1を開催する計画を打ち出したのですが、道路の使用許可が下りず断念した。その際、『日本は公道使用はおろか、ポリスエスコート(警察の先導)もできない』という話を聞いたFOCA(F1製造者協会)のバーニー・エクレストン会長は、怒りより先に笑いだしたそうです。しかし、元国家公安委員長の古屋圭司氏がモータースポーツ振興議員連盟の会長に就き、状況は大きく変わった。道路使用許可などの行政手続きを円滑化する『モータースポーツ推進法案』を取りまとめ、障害を取り除いた。古屋衆院議員は安倍首相の成蹊大の先輩で昵懇の関係。野党にも賛同する議員がおり、成立するのは確実です。東京、横浜の中心部で自動車レースをやれば、興行的な成功が約束されたようなもの。やろうと思えば、来年にも実現するでしょう」(大手広告代理店担当者)
F1の醍醐味は、恐竜が咆哮するような甲高いエキゾーストノート(排気音)にある。これが騒音問題となり、都市部での開催が難しかった。
「昨年9月からEV(電気自動車)エンジンを使ったフォーミュラカーレース『フォーミュラE』が始まり、人気を集めている。このレースは市街地が条件でベルリン、ロンドン、北京、リオデジャネイロの公道を使い、先週もモスクワで開催されたばかり。エンジン音がほとんど出ず、都心で開催しても問題はない」(連盟所属議員秘書)
テレビ局では、早くも日本初の本格的公道レース開催の綱引きが始まっているという。“お台場=フジテレビ”と“横浜=テレビ朝日”の2陣営で、どちらにも可能性がある。
視聴率低下による広告収入の低迷に悩むフジテレビは、三井不動産、鹿島建設と3社でお台場のフジテレビ本社前にショッピングモールやホテルなども建設し、“お台場カジノ”を計画してきた。しかし、東京五輪を抱える舛添要一都知事はカジノには消極的で、林文子横浜市長が旗を振る“横浜カジノ構想”に横取りされた格好。そこでカジノには見切りを付け、日本版のモナコ・グランプリをお台場で開催することで、収益アップの起爆剤にしようとしているのだ。
「確かにフジはF1開催に実績があり、FIA(国際自動車連盟)の覚えもめでたいが、フォーミュラEにいち早く目を付け、現在全戦中継しているのはテレビ朝日です。こちらも日本開催を目指し、カジノ解禁に合わせて横浜グランプリを計画している。テレビ朝日は朝日新聞、日産自動車などと主に11月に横浜国際女子マラソンを主催してきましたが、昨年で終了した。関係者の間では、このマラソン大会のスタート・ゴール地点だった山下公園周辺の公道を自動車レース用に様変わりさせるのでは、と噂されています」(横浜地区財界関係者)
現在、フォーミュラEに日本人ドライバーは参戦していないが、次戦ロンドン大会(6月27、28日)から元F1ドライバーの山本左近が鈴木亜久里氏率いる『アムリン・アグリ』から参戦することが決まった。
まさに、機を見るに敏。2020年東京五輪に乗じて、F1“日本版モナコ・グランプリ”開催が本格的に動きだしている。