これまで電力販売は、契約電力の大きい事業所から順次自由化されてきたが、現在でも50キロ未満の電力供給は10電力会社が独占している。これが自由化されると小規模の商店や家庭も自由に電力会社を選べるようになるのだ。
東電の原発事故発生と料金の値上げ申請で、消費者の既存電力会社への反発は強まっており、こうした電力の自由化を歓迎する声は大きい。しかし、電力自由化には、大きなリスクが存在することも事実だ。
アメリカでは'90年代に電力自由化が進められた。'96年に送電網の開放が義務付けられ、半数の州で電力小売が自由化されるとともに、新しい電力事業者が次々に事業を始めた。しかし、'00年から'01年にかけて、カリフォルニアで需要に供給が追いつかず、ブラックアウト(広範囲の大規模停電)が発生した。電力自由化は低価格競争をもたらした。そのため、収益に貢献しない送電のバックアップ投資が抑制されただけでなく、危機の際にライバル会社へ電力を融通するといったことも十分には行われなかったからだ。
さらに、問題を大きくしたのは、電力販売の自由化と同時に進んだ金融面の規制緩和だ。電力事業が投機にまみれてしまったのだ。その最大の主役がエンロン社だった。
エンロン社は、もともとガスと電力を扱うエネルギー企業だった。しかし、マーク・トゥ・マーケットという時価会計を採り入れることにより、実際に取引が行われていない将来の収益も現時点のバランスシートに反映させ、莫大な利益を計上することに成功した。また、連結決算の対象とならない子会社を次々に設立して、損失はそうした子会社に飛ばし、自らのバランスシートを粉飾した。さらには、先物、オプション、スワップといった金融派生商品を積極活用して、見かけ上の収益をどんどん拡大していったのだ。
さらに役員のみならず、従業員にもストックオプションを与えることによって、実際に支払う給与額を低く抑えた。ストックオプションというのは、一定の価格で自社株を買う権利であり、株価が上昇すると、大きな資産となる。たとえば、現在株価が100円の会社で、1株100円で1万株を買う権利が与えられた従業員は、会社の株価が300円になれば、その時点でストックオプションを行使して1万株を100万円で会社から引き出し、すぐに売れば300万円の収入になるので、差し引き200万円の儲けになるという仕掛けだ。
こうした新しい経営の仕組みの下、エンロン社は'00年には、全米売上げ第7位の大企業に成長した。しかし、カリフォルニア電力危機の際にも、投機的取引で大きな収益を上げるなど、その売り上げの大部分は、実体のない収入だった。その結果エンロン社は、'01年12月に経営破綻に追い込まれた。負債総額は160億ドル以上といわれ、当時、アメリカ史上最大の企業破綻となった。
単に規制緩和だけしてもうまく行かない。電力を自由化しても、こうしたことが日本でも起きる可能性がないのかどうか、十分慎重な検討が必要だろう。