そもそも花粉症は、スギやヒノキなどの植物の花粉によってアレルギー症状を起こす病気。体内のIgE抗体が花粉成分と結合することで、くしゃみや鼻水、鼻詰まり、目のかゆみなどの症状を引き起こす。
重症化しやすい理由はどこにあるのか…。花粉症治療の専門医でもある内浦尚之医学博士はこう説明する。
「重症化の理由は、花粉の中に存在するアレルゲンです。スギ花粉の場合、Cryj1とCryj2が主なアレルゲンです。j1は花粉の外に、j2は花粉の殻の中に多く見られ、二酸化窒素や硝酸塩などの大気汚染が花粉と結びつくと、花粉の殻が傷つき、かつ、花粉が水に溶けやすくなります。すると、空気中の水分が花粉の中に染み込み、花粉が膨張する。やがて爆発(破裂)し、殻の中のCryj2が外に飛び出してしまいます」
一方、Cryj1は、乾燥によって花粉から剥離し、空気中の水分で花粉から切り放されて、やはり空気中を漂う。
たとえ花粉の飛散量が少なくても、それとは関係なく、微細なアレルゲンが空気中に漂い、吸い込みやすくなり、花粉症の症状が出やすくなるというわけだ。
一般的に花粉症の症状と言えば、鼻、目、皮膚と思いがちだが、実はもう1つ大きなダメージを受ける場所がある。「呼吸器」だ。
東京都立多摩医療センター呼吸器・腫瘍内科・脇山博之医師はこう語る。
「これから猛威を振るうスギ花粉の花粉症の人のうち、35%の人が気管支に症状を出すという報告があります。もともと喘息がある人を対象にした別の調査によると、喘息が悪化するきっかけとして『花粉』を挙げる人が3割を超えています。喘息患者の3分の2がアレルギー性鼻炎をもっていて、逆にアレルギー性鼻炎の患者の3分の1に喘息の症状がみられる。呼吸器にとって花粉は厄介な存在です」
同じ花粉症でも、呼吸器に起きる症状は、鼻や目、皮膚と発症のメカニズムが異なるといわれる。鼻や目は、花粉が粘膜や表皮に取り付くことで炎症が起こるが、呼吸器の場合は直接花粉が到達するのはまれだという。
直径が30マイクロメートルとインフルエンザウイルスなどと比べると大きい(インフルエンザの直径は100ナノメートル=0.1マイクロメートル)ため、鼻の粘膜に留まるので、気管支に直接到達することは考えにくい。
だが、どうして気管支などの呼吸器で症状が起きやすいのだろうか。
「最初は鼻で炎症が起きます。花粉症によるアレルギー性鼻炎で炎症細胞が活性化されると、その一部が血流に乗って気管支に移り、気管支炎を起こすのです。しかし、『花粉症=鼻の症状』と思い込んでいる人は多く、耳鼻咽喉科を受診しても、呼吸科を訪れる人は少ない。その結果、気管支炎を悪化させ、せき喘息や気管支喘息などに進展する人も少なくありません。もう1つ、注意したい症状に『後鼻漏』がある。これは鼻炎の症状の1つですが、鼻水が鼻の奥を伝わってのどに垂れる症状のこと。鼻水がのどの気道に流れ込むと、それを排出しようとして咳が出てしまうのです」(脇山医師)
比較的軽い咳が特徴だが、これも悪化するとせき喘息や気管支喘息のリスクとなるために、脇山医師は甘く考えないよう注意を呼び掛けている。
★「重症化」の目安とは?
また別な専門家は、花粉の殻が爆発して微小化した花粉は、肺の奥深く、肺胞まで届くことを突きとめている。そこで分かったのは、花粉が大きければ目のかゆみやくしゃみ、鼻水などまでで終わり、症状は深刻化しないということ。
しかし、肺胞まで届けば、喘息や気管支炎と同様の症状が出る。だが、花粉と関連づけて考える医者は少なく、症状もなかなかよくならない。さらに、アレルゲンで肺が傷つくと大気汚染に含まれる発がん物質のダメージを受けやすくなるともいわれている。
また、花粉の症状を和らげるためには薬が欠かせないが、症状の出はじめに抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)を服用し、症状の悪化を抑えることは可能とされる。しかし、重症化した人は抗ヒスタミン薬を服用してもかえって症状が強くなるという傾向もあるという。
東京都内で医療総合クリニックを営む久富茂樹院長に、こうした重症化の目安となるチェック項目を上げてもらった。それは次の3つである。
(1)くしゃみの発作=1日平均11回以上。
(2)鼻汁=1日11回以上。
(3)鼻閉=鼻の閉塞が非常に強く、1日のうち口呼吸の回数がかなりある。
このいずれか1つでも当てはまれば、「重症」と判断されるという。早めに耳鼻咽喉科の受診を勧めたいとしている。
花粉症の発症部位としては、圧倒的「顔」が多い。
本来の花粉症による症状で、鼻をかむ、痒いから目を擦るという行為を繰り返しているうちに、擦った部分が赤くなっていくことが多いが、擦らなくても炎症が起きることもあるという。額や頬、首筋などに症状が出る人も少なくない。
「洗濯して外に干しておいた肌着などを着たことで、衣服に着いていた花粉が肌に付着し炎症や湿疹が生じるケースがある。そんな人は、それ以前に“顔の症状”に出ている人も多い。つまり、花粉が飛ぶと顔に炎症が出来る人(特に目の周りがパンダのようになる人)は、洗濯物などの取り扱いに注意が必要です」(久富院長)
スギ花粉の皮膚炎は食物アレルギーと違って、体内に抗原が入るとできる炎症ではなく、皮膚に抗原が付着することで症状が現れる。当然のことながら、「掻く」のは厳禁だ。
外出から戻ったら、玄関先で衣類をよくはたき、花粉を落としてから家に入る。うがいをし、手や顔をよく洗ったら、乾燥防止の保湿外用薬を塗り、その上でかゆみや赤く腫れた部分にステロイド剤を塗っていく。
このように、できることは確実に実践して花粉症を予防したい。