東京電力といえば、ここ数年、ガスが不要のオール電化住宅を推し進めてきた。当然、困るのは東京ガス。同社はオール電化の普及を阻止すべく、ガスの良さをPRする活動を、100%子会社のアーバン・コミュニケーションズに業務委託してきた。
アーバン社はその業務を、さらに別の4社に委託し、その社の契約社員、派遣社員計344人が、戸別訪問でガスの長所を説明して回っていた。
ところが、今回の震災を受け、東京電力管内の電力が不足してしまい、輪番で電気を止める計画停電がスタートする非常事態に陥った。電力不足は長期間続くことが予想され、冷房を使う夏場は大変な節電が求められる。予想だにしなかった状況に、すでにオール電化を導入している家庭は、廃止してガスとの併用を検討するだろうし、オール電化に興味をもっていた家庭では切り替えにちゅうちょするのは自然のなりゆき。
この事態に肩をなでおろしたのが東京ガス。同社は震災後、アーバン社への業務委託契約を解除。アーバン社は344人の契約社員、派遣社員の雇い止めを通告。それらの従業員に対し、3カ月分の給与を追加で支払うように手配した。アーバン社によると、大方の従業員が雇い止めに応じたという。
東京ガスは「福島原発事故に伴う電力不足が続いており、オール電化に対抗する必要がなくなったと判断。委託を取りやめた」と説明している。
被災地に限らず、震災の影響で、職を失ったり、自宅待機を命じられた人は多い。東京ガス自体は大きな被害を受けたわけではなく、その措置はあまりにも非情といえなくもない。だが、震災余波では、やむを得ないことなのか。クビを切られた人たちは不運というしかなく、新たな職が見つかることを祈るばかりだ。
(蔵元英二)