今季のFA申請が11月1日に締め切られた。横浜の筒香と国内FA権を取得した広島の菊池、海外FA権を取得した秋山という注目の3人は、それぞれメジャー挑戦を表明していたが、下した決断は三者三様となった。
筒香はポスティングシステムを使ってのメジャー移籍が決まり、FA権利を行使したのは秋山だけ。菊池はFA権を行使しないことを表明した。
しかし、これで今年のメジャー挑戦は筒香と秋山の2人だけと決めつけるのは早計だ。球界の裏事情に詳しい全国紙のベテラン運動部記者が次のように明かす。
「結論から先に言うと、筒香のメジャー行きは確実ですが、秋山は進路を変更して国内移籍、逆に、広島残留が確実と見られる菊池は今後、ポスティングを使ってメジャー移籍の大どん返しが予想されます。注目すべきは、筒香と秋山の進路が、横浜DeNAを介して微妙にリンクしていることです。横浜の南場智子オーナーが筒香のポスティング移籍を容認したのは、『秋山を獲得すれば、ベイスターズの人気と戦力は維持できる』と分析したからでしょう。ある種、野球の素人だから出来る技ですが、的を射ているのも事実」
筒香は2020年シーズン中に国内FA権を取得、あと2年待てば海外FAで渡米できる。それを前倒しさせたところに、横浜のしたたかな商魂が見て取れる。
正攻法である海外FA権でのメジャー移籍は、聞こえはいいが、球団には1銭の金も入らない。これでは、日本の所属球団は、泣くに泣けないのが実情だ。その点、ポスティング制度を使ったメジャー移籍なら、最大20億円の移籍補償金が入る。
「今季の横浜DeNAの選手総年俸は、12球団中7位の約29・5億円。20億円はその3分の2を占め、単純計算だと来季は10億円で済む。しかも、今季の筒香の年俸は4億円(推定)。この分を差し引けば、タダも同然に近い。あと2年引き止めてプレーさせるより、目の前にある20億円を取った方が得策。クールな女性経営者からすれば、しごく当然の判断でしょう」(DeNA幹部社員)
しかし、これだけでは、ベイスターズファンの反発は必至。そこで南場オーナーが企図したのが、西武から海外FAの行使を表明した秋山の獲得なのだ。
秋山は横浜DeNAの準フランチャイズで、二軍の本拠地がある横須賀市の出身。横浜創学館高校(旧横浜商工高)では1年からレギュラーで活躍し、甲子園出場は果たせなかったものの、神奈川県内には今なおファンが多い。懸念される横浜高OBの“筒香ロス”を、横浜商工OBの秋山でカバーという巧妙な戦略だ。
秋山の今季年俸は2億3490万円(推定)。メジャー移籍の一番の目的は、実績(シーズン最多安打保持者)に見合う年俸ゲット。西武では「自分の年俸が過小評価されている」という不満が背景にある。
なるほど、米メディアでは「2年総額8億円」の評価額が報じられており、ことは思惑通りに進んでいた。ところが、秋山は10月31日に国際野球大会「プレミア12」前のカナダとの強化試合で死球を受け、右足薬指を骨折。契約金アップを目論んだはずが、本番前にリタイアするという悲劇に見舞われた。これでメジャー球団がこぞって尻込みすれば、筒香のポスティングマネーで逆転できるというしたたかな計算だ。
一方、広島の菊池だが、国内FAの行使を断念したことで、原辰徳監督らが期待する巨人移籍は消滅した。とはいえ、これで1年待って海外FA権を行使してメジャー挑戦と考えるのは短絡すぎる。
なぜなら、本人、球団共にポスティングでのメジャー移籍は否定していないからだ。つまり、「プレミア12」が終わるまで封印し、その後の容認に含みを持たせたわけだ。
ポスティングの申請期間は11月1日から12月5日まで。この間に広島がポスティング移籍を認めて告知すれば、30日間の交渉期間が設けられ、菊池はMLB全球団と交渉ができる。
横浜同様に、広島にとっても20億円の補償金は大きな魅力で、来年の国外FAだけは回避したいのが本音。かと言って、巨人移籍だけは絶対に許し難い。
「国内FAなら、広島コーチ時代に菊池を育てた石井琢朗コーチが新加入した巨人に持っていかれる可能性が高い。ならばメジャーへ送り出そうという声が球団内で強まっている。それを知ってか、原監督は菊池を断念、FA補強を楽天・美馬学投手とロッテ・鈴木大地内野手に絞り込んでいる」(広島担当記者)
プレミア12は、いわば、菊池にとって自身をアピールする“セレクトセール”(公開セリ市)。同大会の決勝戦(11月17日)を待ってポスティング移籍に舵を切り、ストーブリーグの主役に躍り出る――。