『ホテルローヤル』(桜木紫乃/集英社 1470円)
先月7月17日に発表された第149回直木賞受賞作である。北海道の小さな町にある〈ホテルローヤル〉に関わる七つの話が集まった連作短篇集だ。ホテルローヤルはラブホテルである。当然、男女間の生々しいコミュニケーションが浮き彫りになる。結局のところ私たちは皆寂しがり屋であり、孤独から逃れるため切実に異性を求める。ラブホテルは人間の根源的な心を象徴する場所なのだ。
時系列に沿った順序で各話が並べられているのではない。むしろ逆であり、最初の話「シャッターチャンス」で今現在のホテルローヤルが登場する。すでに廃屋となっている。そしてページが進むに連れ、このホテルが廃業するときのエピソード、まだ経営が順調だったころの利用客の姿などが描かれていく。
「シャッターチャンス」では、人生の一発逆転を狙う男が恋人を被写体にして投稿ヌード写真の撮影を試みる。「バブルバス」では、経済的余裕のない夫婦が新婚時代を思い出しながら抱き合う。「せんせぇ」の主役は高校教師とその生徒だ。彼ら彼女らの心情は確かに切実ではあるが、客観的に見れば可笑しみが付きまとい、どこか安っぽい存在でもある。この安っぽさなるものの描写は桜木紫乃特有のものだ。元来、人は見栄を張って生きているだけで、決して格好いい生き物ではない。登場人物すべてがとても他人とは思えず、愛おしくなる。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『AKB48総選挙! 水着サプライズ2013』(週刊プレイボーイ編集/集英社・1000円)
この時季恒例の写真集が今年も発売! “肉食系”指原莉乃がセンターを務めているせいか、今まで以上に“オカズ度”が増したといえるかも(笑)。全64人の水着姿が拝めてこの値段。買うなら今でしょ!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
頭の活性化に役立ちそうな漢字ナンクロ雑誌が『漢字塾』(470円/世界文化社)だ。ナンクロとは、「ナンバークロスワードパズル」の略。パズルの枠すべてに番号がふってあり、同じ数字の枠には同じ文字が入る。漢字ナンクロはすべての枠に漢字を書き込み、意味のある言葉で埋めていく。
「都道府県のご当地パズル」と題されたコーナーでは、兵庫県の地名・名産物などの漢字で言葉をつむいでいくのだが、これがなかなか難しく、時間もかかる。知識も必要で、頭の体操にはうってつけだ。
PCやメールの普及によって“書く”ことが減ったせいか、漢字力が衰えたと感じている人が約7割に上るそうだ(文化庁・平成23年度「国語に関する世論調査」)。言葉や表現が多彩な日本の言語文化が後退していると指摘する専門家もおり、そうした点を克服したい中高年に親しまれているのだとか。プレゼントも充実している楽しい雑誌だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意