メジャーリーグの場合、再建モードに入った球団が最初にやるのは、トレード期限の7月末に行う大型トレードである。このトレードで再建モードに入った球団が優勝を争う球団に高額年俸の主力選手を放出し、見返りに1〜3年後に主力選手に成長しそうなマイナーのホープを獲得する。ヤンキースもシーズン前半、貢献度が最も高かったセットアッパーのA・ミラー、メジャー最速のクローザーであるチャップマン、シーズン前半で打率、本塁打、打点がチーム1だった主砲ベルトラン、先発4番手のノバの4人を放出し12人のマイナーのホープを獲得した。
再建の次のステップは、チーム最大の不良資産となっていたアレックス・ロドリゲスの解雇である(表向きは引退)。契約が来季まであるので、ヤ軍は今季の残存年俸600万ドル(6億円)と来季の年俸2000万ドル(20億円)をドブに捨てる形になったが、もはや戦力になる見込みがないため、損切りを決断したのだった。
さらにヤ軍は不良資産選手の代表格タシェアラ(年俸2200万ドル=22億円。引退予定)及びサバシア(年俸2500万ドル=25億円)と契約が切れる。
その結果、チームは一気に身軽になり、新戦力の補強に回せるカネが8000万ドル(80億円)前後できる。
今オフ、ヤンキースが重点的に補強するのは先発投手と中軸を担う大砲である。
先発投手はエース、準エース級を計2人。中軸を担う大砲は2〜3人ほど獲得したいところだ。
このうち大砲の方は80億円近い補強予算を使って獲得することになるだろう。今オフ、FAマーケットには打点王確実なエンカーナシオン(ブルージェイズ)、本塁打王レースのトップを走るトランボ(オリオールズ)をはじめ長距離砲の出ものが多いので、獲得に苦労することはないだろう。
先発投手の方は、今オフ、FA市場にいい出ものがないため、7月末に集めておいたマイナーの有望株を使って獲得を目指すことになるだろう。本来なら2、3年、有望株をじっくり育成して大きな戦力に育てるべきところだが、ヤ軍は常にハイレベルな即戦力を揃えて勝つチームなので、そのようなまどろっこしいことはしない。
チーム内には、捕手のホープ、G・サンチェスの台頭で存在感が薄れている正捕手マッキャン。パワーと足の衰えが顕著な正左翼手ガードナー、チャンスに結果を出せない正三塁手ヘッドリーなど、放出したい大物が数人いる。マイナーのホープ2、3人にこうしたベテランを加える形でトレードを仕掛け、エース、準エース級を獲得するだろう。
ターゲットになりそうな投手はホワイトソックスの剛腕左腕クリス・セイル、第2エースのホセ・キンターナ、ブレーブスの悲運のエース、フリオ・テヘラン、アスレチックスの大黒柱ソニー・グレイ、レンジャーズの奪三振マシン、ダルビッシュ有、サイヤング賞受賞経験がある左腕ダラス・カイクル(アストロズ)、コーリー・クルーバー(インディアンズ)あたりだ。
気になるのは、こうしたトップクラスの先発投手が移籍してきた場合、田中将大の扱いはどうなるか、ということだ。
結論から言えば、田中はメジャーのベスト20に入る投手と評価されているので、エースの座を滑り落ちることはない。セイルやクルーバーのような大物が加入した場合は、ダブルエースの1人という扱いになるだろうが、開幕投手はあくまでも生え抜きの田中が務めるだろう。
ヤ軍にもう1人、エース級の投手が加入することは、田中にとってマイナスではなく、大きなプラスになる可能性が高い。今季のヤ軍はローテーションに田中以外、頼れる投手がいなかった。そのため、田中はヒジの故障リスクがあるにもかかわらず基本的に中4日で起用され、酷使されている感があった。
もし、チームにもう1人、同レベルの投手がいれば、もう少し登板間隔に配慮した使い方をしてもらえる可能性が高い。そうなれば防御率が大幅によくなるだろう。今季、田中は中4日で登板したときは防御率が4.64だが、中5日で登板したときは1.99である。
現在ア・リーグの防御率1位はマイケル・フルマー(タイガース)の2.58である。もし、田中が中5日で登板する機会が大幅に増せば、これをしのぐ防御率を出すだろう。そうなればサイヤング賞も夢ではない。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。