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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 国土強靭化の始まり

 2013年秋の臨時国会において、国土強靭化基本法(正式名称は「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」という)が成立し、さらに南海トラフ地震対策特別措置法と首都直下地震対策特別措置法も無事に国会を通過した。
 これら国土強靭化三法に則り、安倍晋三内閣総理大臣は12月17日に国土強靭化推進本部の初会合を開き、国土強靭化政策大綱が決定された。大綱決定により、国土強靭化は正式に「政府の方針」となったことになる。

 大綱には、国土強靭化の目標について以下の通り書かれている。
 〈いかなる災害等が発生しようとも、(1)人命の保護が最大限図られること、(2)国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること、(3)国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化、(4)迅速な復旧復興を基本目標として、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築に向けた「国土の強靱化(ナショナル・レジリエンス)」を推進することとする〉

 上記の目標に反発する日本国民は少ないと信じるわけだが、現実の国土強靭化の道のりは厳しいものにならざるを得ないだろう。
 何しろ、日本国民の多くが「巨大地震という非常事態」について、真剣に「想像」していない。東日本大震災を経てさえ、「自分が犠牲者になる可能性」について考慮していない国民が多数派だろう。

 筆者は以前から、
 「公共事業の一環として、電柱の地中化を」
 と訴えているが、これは別に「美観」の問題で主張しているわけではない(美観も良くなるだろうが)。現実に大震災が発生した場合、道路を横倒しになった電柱が塞ぎ、救援活動の妨げになるためだ。

 首都直下型地震の場合、最悪で死者数4万8000人、発生直後の避難住民は約700万人と想定されている。
 地震そのものからは命を守った首都圏の「700万人」の被災者を救援する。これ自体が、「人類に可能なのか…」と、疑問を持ってしまうほどの凄まじいオペレーションだが、首都圏への道、あるいは首都圏の道が、電柱で塞がれていた場合はどうなるだろうか。
 簡単である。地震自体では死ななかった東京都民(筆者含む)が、1人、また1人と命を失っていくだけの話だ。
 無論、救援部隊は重機で電柱を排除し、何とか道を確保しようとするだろうが、被災地の人々が助かるか否かは「時間との戦い」なのだ。
 また、我が国の土建サービスの供給能力が現在以上に落ち込んでいた場合、電柱を排除し、道を修復しようとしても「人材がいない」「機材がない」という話になりかねない。

 本連載で指摘した通り、我が国はすでに「土建大国」ではない。「土建小国」なのだ。
 まさに、この「土建小国化」こそが、国土強靭化を妨げる制約の一つだ。
 何しろ、我が国の建設企業の数は、ピークの60万社('99年)からすでに47万社('12年)へと激減してしまっている。市場を去った労働者の総数は、実に160万人を超える。
 こうした問題の解決策は、政府が「長期の計画を立て、需要をコミットする」ことで、土建産業の投資拡大、人材育成を誘発することだ。そういう意味で、'14年5月に予定されている国土強靭化基本計画の立案と確実な実施が肝となる。

 二つ目の制約は、もちろん「財務省」の存在だ。たとえどれほど立派な法律が成立し、国土強靭化計画が立案されたとしても、「予算」がつかなければ前に進むことはできない。
 不吉なことに、国土強靭化大綱の「基本的方針」には、
 〈人口の減少等に起因する国民の需要の変化、社会資本の老朽化等を踏まえるとともに、財政資金の効率的な使用による施策の持続的な実施に配慮して、施策の重点化を図ること〉
 と、嫌な一文が入っている。
 無論、我が国がデフレから脱却し、名目GDPが堅調に拡大していく状況になったならば、筆者にしても「効率的な財政資金の使用」に反対するつもりはない。
 とはいえ、少なくともデフレが継続し、日銀の量的緩和が拡大している現在、我が国に財政問題はない。
 それにもかかわらず、財務省はとにかく「常に」予算を削ろうとしてくる。今後の我が国では、国土強靭化を巡る政治家との軋轢(法律や大綱の「解釈」等)が激化していくことになると予想する。

 そして、三つ目の制約が「マスコミ問題」だ。
 「国土強靭化は公共事業のバラマキ!」なる、陳腐なレトリック、レッテル貼りをマスコミが連呼し、それを国民が受け入れてしまうと、土建産業側が需要継続を信用せず、投資に乗り出そうとしなくなる。
 土建産業が投資を増やさなければ、供給能力不足という制約は解消せず、我が国は国土強靭化を達成することなく首都直下型地震、南海トラフ巨大地震という非常事態を迎えることになってしまう。
 その種の事態を防ぎたいならば、国民一人一人が、
 「日本国を強靭化し、自分たちが安全に暮らせるようにしてほしい」
 との意見を表明する必要がある。すなわち、国土強靭化推進の世論の醸成だ。
 恐らく、マスコミの多くは国土強靭化関連の情報を報道しないか、アリバイ的に簡易に報道するのみだろう。
 あるいは、ひたすら「国土強靭化は土建屋へのバラマキ」といったレッテル貼りを繰り返し、国民に強靭化への嫌悪感を持たせるように仕向けると予想される。予算を使いたくない財務省も、マスコミをバックアップする。
 彼らに対抗するためにも、日本国民が自国や国土の強靭化について「正しい情報」を持たなければならない。「マスコミに騙されて」日本国民が国土強靭化を拒否し、来たるべき非常事態を無防備なまま迎えるなど、もはや悲劇ではなく「喜劇」としか呼びようがないのだ。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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