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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 ケーブルテレビ寡占の是非

 ケーブルテレビ最大手のジュピターテレコム(J:COM)と同2位のジャパンケーブルネット(JCN)が、今年度中の経営統合を検討していることが明らかになった。統合が実現すれば、ケーブルテレビ市場での新会社のシェアは5割に達し、ガリバー企業が誕生することになる。

 経営統合の理由は、NTTとの対抗だ。NTTは'08年からフレッツ光の利用者に対して「ひかりTV」のサービスを提供している。テレビ放送とビデオ・オンデマンドが楽しめるサービスで、その内容はケーブルテレビと変わらない。つまり、NTTがケーブルテレビ市場に殴り込みをかけてきた形だ。
 一方、J:COMとJCNは、各地に乱立した地域のケーブルテレビ会社をM&Aする形で成長してきたゲーブルテレビの集合体だ。したがって、今回の経営統合は、ケーブルテレビが生き残りをかけて巨人NTTに対抗する手段と言える。

 しかし、今回の経営統合はもうひとつの意味合いを持つ。NTT対KDDIの戦いだ。
 現時点で、J:COMの株式は、住友商事が40%、KDDIが31%を保有している。一方のJCNの株式はKDDIが実質的に96%を支配している。統合計画では、住商とKDDIは、J:COM株をTOB(株式公開買い付け)で買い付け、上場廃止にした上で、J:COMとJCNを統合する予定だ。統合新社の株式は、KDDIと住友商事が半数ずつ持つ予定になっている。KDDIは住友商事と手を組んで、NTTと対抗しようとしているのだ。
 ニーズの多様化で、テレビがマルチチャンネル化していくことは、間違いない。その中で、多様なコンテンツを揃えるためには、ある程度の経営規模がどうしても必要になる。だから、ケーブルテレビ市場でのシェアを高めようとするKDDIの戦略は的を得ている。
 しかし、だからといって、ケーブル市場で50%という大きなシェアを持つ企業の誕生が、許されるのだろうか。現実問題としては、ケーブルテレビには地域独占が認められているため、公正取引委員会は統合を認めるだろうといわれている。しかし、私が気になるのは、J:COMの利益率だ。

 昨年のJ:COMの連結売上高は3690億円、経常利益は685億円で、経常利益率は19%にも達している。もちろん民間企業なのだから、どんなに利益を出しても構わない。ただ、もしこのまま巨大化したJ:COMが、市場を支配してしまうと、今後は生産性の向上の成果が消費者に還元されなくなる可能性が出てくるのだ。
 私自身、インターネット回線としての利用も含めて、ケーブルテレビを活用してきた。だから、ケーブルテレビこそ重要な情報インフラだと確信している。日本は、テレビという大容量のデータを電波に乗せて放送し、電話という大きくないデータを有線でつないできた。これが大きな間違いであったことは、すでに電話の主流が無線の携帯電話に代わったことからも明らかだろう。

 だから、今度はテレビを有線に切り替える番だ。その意味で、今後のケーブルテレビが果たす役割は非常に大きいのだ。
 その中で、必要になるのは利用コストの低減だ。私は、ケーブルテレビは、まだ激しい競争を続けて、料金の低廉化を図るべき段階なのではないかと思う。

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