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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 規制改革に潜む牙

 政府が6月14日に規制改革実施計画を閣議決定した。安倍内閣の成長戦略の中心的な部分だが、表現が抽象的で理解しにくかったせいもあるのだろう。新聞やテレビで詳しく報じられることはなかった。
 しかし、よく読むと恐ろしい改革が進もうとしていることがわかる。身近な労働分野でその中身をみていこう。

 労働分野の具体的な規制緩和は四つある。第一は、「ジョブ型正社員の雇用ルールの整備」だ。ジョブ型正社員というよくわからない新語を用いているが、これは明らかに「限定正社員」のことだ。職種や勤務地を限定する代わりに給与額を抑え、さらに解雇を容易にする。こうした雇用形態の普及・促進を図るというのだから、日本の雇用慣行は大きく変貌するだろう。
 これまでの日本は、正社員の解雇が非常に難しかった。経営が追い詰められ、解雇が避けられない状況にある中でも、配置転換など解雇を回避するためのあらゆる努力が企業に求められているからだ。ところがこの限定正社員の場合には、工場や営業所の廃止をする際に、設備と一緒に解雇することができるようになるのだ。事業所は突然閉鎖されるのが常だ。つまりサラリーマンは、人生設計ができなくなってしまうのだ。

 第二は、「企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し」だ。これまた中身がよくわからないが、おそらくホワイトカラー・エグゼンプションの導入を目論んでいるのだろう。もともと経団連が要求していた制度で、'06年に第一次安倍内閣において労働ビッグバンの一環として議論された制度だ。これは一定以上の年収があり、企画型業務を行う非管理層のサラリーマンについては、労働時間ではなく成果で管理するというものだ。無制限に働かされ、残業代も支払われなくなるために、残業ゼロ制度とか過労死促進制度と批判され、いったんはお蔵入りになったのだが、ここにきてゾンビのように復活してきたのだ。

 第三は、「有料職業紹介事業の規制改革」だ。これについては、「民間の職業紹介事業者が、求職者からの職業紹介手数料を徴収できる職業の拡大について検討する」と明確に書かれている。つまり、これからはお金がないとまともな転職ができない時代がやってくるのだ。

 そして第四は「労働者派遣制度の見直し」。これでは、専門26業務以外は3年間と限定されている派遣上限期間を個人単位に切り替える案が検討されている。いまの制度だと、同じ業務に派遣労働者を使うのは、仮に人が入れ替わっても3年が限度になっているが、それを個人単位の期間制限に変えることによって、同じ業務をずっと派遣労働に置き換えることできるようになるのだ。

 こうした四つの変化は、'95年に日経連(現日本経団連)が「新時代の日本的経営」で打ち出したビジョンを現実化させるものだ。
 このビジョンでは労働者を(1)長期蓄積能力活用型、(2)高度専門能力活用型、(3)雇用柔軟型に三区分して、終身雇用の適用をエリート層に限定することで雇用の柔軟性を高めようとした。ただし、エリート正社員も安泰ではない。彼らには、過労死するまでの滅私奉公が求められるようになるからだ。「成長戦略」でサラリーマンの安定は消えるのだ。

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