先の夏場所で、照ノ富士(24・伊勢ケ浜)はヒドイという域を超えていた。2連勝と好スタートを切ったのもつかの間、3日目から一転して連敗地獄に突入し、千秋楽までなんと13連敗。これは名寄岩が昭和21年に記録した12連敗を69年ぶりに更新する、大関のワースト記録だった。
「両膝のけがに加え、今年の初場所では左の鎖骨を骨折して途中休場するなど、まさに身体は満身創痍の状態。場所前の稽古もほとんど出来ない状態で、やはり無理がありました。途中休場という選択肢もありましたが、本人は『相撲勘が養えるだけましだ』と出場し続けたことも、あの惨敗につながってしまいました」(担当記者)
照ノ富士と言えば、ちょうど1年前の夏場所、破天荒な相撲で初優勝して一気に大関に駆け上がり、「次の横綱は決まり、問題はいつ上がるかだけ」とまで言われた怪物力士。つまずきの始まりは、大関2場所目の去年秋場所13日目、稀勢の里戦で右ひざを痛めたこと。以来、低空飛行を続け、一方の稀勢の里は綱取りに最も近いところに位置し虎視眈々だ。
これを見ても勝負の世界の非情さ、過酷さがよく分かるが、それを誰よりも痛感しているのは当の照ノ富士に違いない。白鵬の37回目の優勝で沸く夏場所千秋楽の支度部屋の隅では、大きな体を小さくして、こんなことを言っていた。
「ついこの前まで強い大関と言われた。こんなに負けたら弱い大関と言われるな。ずっと負けてばかりいたら面白くない。でも、いろいろ勉強にはなった。まあ、来場所を見ていてください。言ったことはやる男なんで」
7月に始まる名古屋場所では、大関かど番。照ノ富士にとっては2度目の試練となる。果たして、照ノ富士は以前の輝きを取り戻すことができるか。5月30日、いち早く復活に向けて始動。1週間後の7日には宝富士や十両の誉富士らと髪を振り乱し、汗みずくになって本格的な稽古も開始した。
「関取との稽古で100%の力を出したのはおよそ半年ぶり。ちょっとずつ力を出せるようになってきている。あと2週間あれば大丈夫」
セールスポイントだった歯に衣着せぬ強気なセリフは戻ってきている。闘志も健在で、あとは身体だけ…。
名古屋場所で“怪物” 照ノ富士は牙をむく。