対照的に、にこやかな表情を見せているのが、貴ノ岩が大怪我を負った暴行現場に同席し、貴乃花親方によってその責任を厳しく追及されている白鵬だ。目下、力士たちは九州一円をめぐる冬巡業中。そんな中、白鵬の周囲は、まるで何事もなかったかのような雰囲気に包まれている。日馬富士についても引退直後は無言を貫いたが、4日の長崎県五島市巡業ではこう話した。
「どういう言葉をかけていいか、見つからない。ただ、(マスコミの)皆さんを通じて、ああだ、こうだと言うつもりはありません。少し時間を置いて、本人に伝えられれば…」
白鵬の中では、もうすべては終わったことなのかもしれない。だが、火種は依然としてくすぶったままだ。
6日の福岡県直方市巡業では、こんな事件の核心を突くようなプラカードを持った男性が現れた。
〈主犯=白鵬、協会は解雇せよ〉
〈白鵬に一番非がある〉
これには、巡業関係者も一様に複雑な表情を浮かべるばかり。それにしても分からないのは、貴乃花親方の相撲協会に対する異常とも思える頑なな態度だ。貴ノ岩の診断書未提出問題も、その一つである。
大相撲界では、たとえ巡業でも、力士が休場する時は医師の診断書を添付しなければならない。もし、それがなければ、ズル休みと判断されかねないからだ。そのことは10月の秋巡業まで巡業を統括していた巡業部長の貴乃花親方が一番分かっているはずである。
ズル休みすればどうなるか。平成19年、朝青龍は急性腰痛症などの診断書を提出して夏巡業を休場中、モンゴルに無断帰国した上、サッカー元日本代表の中田英寿さんらとサッカーに興じていたことが判明。2場所出場停止、および4カ月にわたる減俸30%というペナルティーを受けた。
この朝青龍の二の舞になる危険性をはらんでいるにもかかわらず、貴乃花親方は冬巡業を休場している貴ノ岩の診断書提出をガンとして拒んでいるのだ。しかも、何の説明もなし。どうして貴乃花親方は診断書の提出を拒んでいるのか。
「もし提出すれば、またそれをめぐって痛くない腹を探られるからでしょう。九州場所を休場する時に出した診断書は危機管理委員会が再調査し、まるで自分たちの判断が間違っているような、あるいは嘘をついているような形で公表されましたから。そんな思いは2度としたくないと思っているんじゃないですか。相撲協会をまったく信頼していないんですよ」(担当記者)