A:毎晩、どれぐらいの量のお酒を飲んでいるかわかりませんが、ご質問の方はおそらく虚証の体質だと思われます。
漢方では、病気を防ぎ健康に保とうとする力、すなわち生命力・抵抗力を「正気」と、健康を乱し病気をもたらすものを「邪」と呼んでいます。漢方では、すべての発病の仕組みは、「正気」の低下と「正気・邪」の二つの力関係によって説明されます。
そして、邪の強弱は、個人の正気の強弱と相対関係にあります。生命力・抵抗力が不足した場合、たとえ他の人にとっては弱い邪であっても、発病します。
一方、正気が正常でも、邪のほうがより強いこともあります。たとえば、健康な人が傷んだ食べ物を食べて下痢した場合です。
自然界には一定の変化や流れがあり、人間はそれに従ってこそ、初めて健康を保つことができます。しかし、風・寒・熱・燥・湿などの自然が人間の許容範囲を超えると「邪」になります。
●酒はほどほどがよい
また、邪は体内で発生することもあります。飲食物・血・水分などは、スムーズに運ばれたり体内を巡ることが正常であり、「正気」を保った状態ですが、この流れが停滞すると「邪」となり病気になるのです。
そして、いったん病気になった場合にも、漢方では、その状態や経過を説明するのにも、「正気(不足)」と「邪」という概念を用いています。つまり、虚証とは、「正気不足」の状態。実証とは、「正気が邪に負けた状態」です。
ご質問の方は、お酒を飲み過ぎると下痢し体に疲れが残るそうですが、もともと胃腸が弱く典型的な虚証です。この証の人に適している漢方薬に『五苓散』や『平胃散』があります。
一方、実証の酒飲みの人は、体内に熱が過剰につくられ熱が溜まります。その熱を冷ます働きがある漢方薬に『黄連解毒湯』があります。これらの漢方薬を活用するとよいでしょう。
漢方では、お酒を飲んではいけないとは言っていませんが大酒はいけません。「花は半開、酒はほろ酔い」と言いますが、ほどほどがよいのです。
虚証、実証に関係なく、飲める人は飲めます。しかし、これ以上の量を飲むと体にこたえるだろう、ということを意識して飲むようにしたいものです。
三浦於菟氏(吉祥寺東方医院院長)
熱心な東洋医学の名医として著名。東邦大学医学部卒。国立東静病院内科勤務を経て、中国・南京中医学院、台湾・中国医薬学院に留学。東邦大学医学部東洋医学科教授を経て、同大学客員教授。著書『東洋医学を知っていますか』など多数。