本作は中村敦夫演じる事件記者が諸々の事件の真相を追い求めるという社会派の内容。全19話の制作が予定されていたが、前述のボイコットにより16話をもって完結してしまった。
当時『追跡』の打ち切りを報じる新聞記事によると、第16話「汚れた天使」(脚本:石堂淑朗)の監督を当時、若者に絶大な人気を誇っていた舞台演出家の唐十郎に依頼。しかし、出来上がった作品は、唐独自のアングラ色の強いもので、完成品を見た局のプロデューサーたちは「お茶の間の理解を得ることができない」と判断し、唐の許可なく本作の放映を「飛ばし(未放映)」にしてしまったのだ。
当然、唐十郎は激怒。「放送しなければ(関西テレビとは)絶縁する」と宣言した。すると、主演の中村敦夫、共演者の常田富士男、助監督が唐の考えに呼応するように「今後の撮影には参加しない」との声明文を出してしまったのだ。
しかし、関西テレビは考えを曲げず頑として「汚れた天使」を放送せず、交渉は決裂。『追跡』の撮影は不可能となり、最終回は描かれることなく打ち切りとなってしまったのだ。
なお、「汚れた天使」の内容はおおむね、石堂淑朗の書いた脚本通りだったが、不破万作が演じる緑のおばさんは「グロテスクで気持ち悪い」と関西テレビのウケが非常に悪かったという。また、犬の姿をした人間が常田富士男を追いかけ回すシーンが「わけが分からない」と理解されなかったという。当時の新聞によると、犬のシーンはプロデューサーによっては「思わず笑ってしまった」と評価している部分もあるが、最終的には「これでは視聴者が理解できない。社会派ドラマに必要なリアリティーも感じられない」との判断が下され、放送に至らなかったというのが真実のようだ。
なお、唐十郎は後に編集中のクズフィルムをつなぎ合わせ、99%ボツ作品と同じの自家版「汚れた天使」を制作。出演者や新聞記者、一般のお客さんを呼び、六本木自由劇場ほか全国7カ所で自主上映会を催し、日の目を見たという逸話がある。
ちなみにこの自主制作版の「汚れた天使」は2005年に再上映されているが、近年は上映した形跡がない。また『追跡』そのもののソフト化もいまだ実現していない。該当エピソードとともに「幻のドラマシリーズ」となっている。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)