春場所が3月12日、大阪市のエディオンアリーナ大阪で始まった。前売りはたった2時間半で15日分が完売、幕内の取組にかかる懸賞も15日間で1900本を超えることが確実視されている。これは去年の春場所で記録した1672本を大きく上回り、地方場所では史上最多だ。そのうちの約300本が、稀勢の里にかけられている。最大の注目は当然、19年ぶりに誕生した日本人横綱、稀勢の里(30)だ。
15歳のときにスカウトして育ててくれた故・先代師匠(元横綱隆の里)が新横綱で全勝優勝しているだけに「あとに続け」と意欲十分。しかし、場所前の稽古中に相手の頭がぶつかり、左目の横に11針も縫う裂傷を負ってしまった。
しかし、「こんなもの、ケガのうちに入らないよ。痛みもほぼゼロ」と、本人は至って強気そのもの。翌日にはもう弟弟子の高安と23番もの稽古をこなして、心配する部屋関係者をホッとさせた。
「スポーツ新聞も先場所から大きく紙面を割き、まさに特別扱い。中には大学教授を引っ張りだして『稀勢の里効果は22億円に上る』とはじき出した新聞もある。相撲協会も笑いが止まらないとはこのことでしょう」(大相撲関係者)
おまけに本人の調子も上々。さらに盛り上がるのは間違いなさそうだ。
しかし、ここで気になるのは、周囲のただならぬマークぶり。中でも、横綱になって自己最多の4場所連続して優勝から遠ざかっている白鵬の対抗意識は突出している。
敵を叩くには、その敵と稽古するのが一番。ということで白鵬は初日の4日前、田子ノ浦部屋に出向き、場所前の稽古では稀勢の里と異例の横綱同士の申し合いを繰り広げた。
「この日の稽古相手の本命は、先場所、一方的に押し出されている高安だったようです。しかし、その高安と8番取ったところで、『やろう、土俵に入れ』と手で稀勢の里を促し、6番やりました。結果は白鵬の4勝2敗。ですが、稽古内容より、田子ノ浦部屋に自ら足を運び、稀勢の里まで引っ張り出したところに、白鵬の並々ならぬ決意のほどがにじみ出ていました。白鵬は今場所、本気で打倒稀勢の里、賜杯奪回に燃えていますね」(担当記者)
本番前の下馬評はこのようなものだったが、初日でまさかの取りこぼし。身体に張りがなく、剥き出しの闘志が“空回り”していると見えるのは気のせいだろうか。大横綱白鵬の身体が今場所は小さく見えている。遅れてやってきた“春一番”とならなければいいが…。