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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 佐川国税庁長官はなぜ辞めない

 1月24日の代表質問で、立憲民主党の枝野幸男代表が、佐川宣寿国税庁長官の即時更迭を求めた。
 枝野代表は、森友学園への国有地売却に関して、当時、財務省理財局長だった佐川氏が、国会で「価格を国から提示したことも、先方の希望が示されたこともない」と答弁したにもかかわらず、学園側と近畿財務局の間で具体的な金額に言及した音声データが出てきたことで、「虚偽答弁であったことは明々白々」であり、そんな人物が国税庁長官へと昇進することは、「常識では考えられない」と批判。しかし安倍総理は、「適材適所の人事」という立場を変えなかった。

 なぜ、佐川長官は自ら辞めないのか。佐川長官が森友関連の資料を早々に破棄してしまったことに対して、納税者から「自分に都合の悪い文書は破棄して、納税者に領収書の保管を求めるのか」という批判が相次いでいる。
 また、佐川長官自身、家族も含めて世間に顔を向けられない暮らしを強いられているのだから、さっさと辞めたいというのが本音だろう。
 一方で、安倍総理にとっても、実際に野党からこれだけ批判されているのだから、佐川長官を更迭するのが、通常の危機管理のはずだろう。

 一体、何が起きているのか。私は、安倍総理が佐川長官を人質に取っているのだと思う。官邸が本気で動けば、佐川長官を更迭することはおろか、逮捕させることも可能だ。国有地を二束三文で売り払い、国民に損害を与えようとしたのだから、当然だ。証拠も揃っている。
 それでも、安倍総理が佐川長官を温存するのは、それが安倍総理に有利に働くからだ。本稿では何度か指摘してきたが、安倍総理は政界唯一と言ってよい「反財務省」の政治家。現に過去2回、消費増税を凍結している姿勢からも明らかだ。その安倍総理にとって、佐川長官を残しておくことが財務省への最大の牽制になるのだ。

 まず、佐川長官が辞任したいと言い出したら、「辞任すれば逮捕されるぞ」と言えばよい。それだけで、佐川長官の動きを封じることができる。
 財務省も同じだ。私が記憶する限り、戦後、キャリア官僚が職務に関する容疑で逮捕されるケースは、非常に少ない。最近では、2009年に厚生労働省の課長だった村木厚子氏が郵便料金不正にかかわったとして逮捕された。結局、この事件は完全な冤罪だったことが判明するのだが、事件はメディアで大きく取り上げられた。
 もし、佐川長官が逮捕されるようなことになれば、財務省にとっては1998年のノーパンしゃぶしゃぶ事件以来の大スキャンダルになってしまう。だから、佐川長官を人質に取られている間は、安倍総理に一切逆らうことができなくなってしまうのだ。

 それでは、安倍総理は財務省を封じ込めて何をやろうとしているのか。答えは明らかで、来年10月に予定されている消費税率の10%への引き上げの凍結だ。悲願の憲法改正に向けての歩みを着実に進める安倍総理にとって、いまの不安定な支持率では、憲法改正の国民投票での勝利を危うくする。だから、支持率回復のためにも、消費税引き上げ凍結が欠かせないのだ。

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