隣で咳をされると気になるものだ。風邪でもうつされてはかなわない。そそくさと移動したことがある人は、かなりの数になるのではなかろうか。今回は咳を侮ってはいけないという話をお届けしよう。
実際に咳が原因の病気は多く、治療が遅れると死に直結することがある。とりわけ、長引く咳には注意が必要だ。
「最近では、肺結核が増えています。筋骨隆々で栄養もよさそうな人でも、肺に空洞がある重症の肺結核が発見されて驚くことがあります」
東京・目黒で循環器呼吸系のクリニックを営む加藤秀治医博の説明だ。そして、こう付け加えた。
「たかが咳、と自己診断する人が多い。しかし、聴診器を当てて肺の雑音の有無を調べると、上気道だけの変化ではなく、肺の中で病変が進んでいると疑わせる症状が把握できます。2週間以上も咳が続く人は胸部レントゲン撮影による診断を受けてほしいですね」
咳といってもいろいろある。長引く咳が風邪によるものか、気管支炎や喘息などの風邪以外のものなのか、一般の人にはハッキリと判断できない。大切なのは、咳の原因は何かをチェックすることだ。咳が出始めて何日経つのか。2週間以上経過しているか。咳と一緒に痰が出るか。1日の内、何時ごろに出るのか。咳以外に体重の減少や微熱などの症状がないか、など。
このように注意しなければいけない項目が多いと加藤医博は言う。そして、その答えに従って、頻度の高いものから順に病気を絞り込んでいく。気管支炎や肺炎、喘息、副鼻腔炎、アレルギーの咳、風邪によるものかどうかなどを決める。
また、“から咳”という言葉を耳にしたことがあるはずだ。気管支が過敏になっているとき、冷たく乾燥した空気を吸うだけで咳き込むことがある。これを痰の出ない“から咳”と呼ぶ。
医療関係者によると、この「痰が出る咳か、痰が全く出ない咳か」の見分けは、病名を判定する上で大切なことだという。
東京医療センター・耳鼻咽喉科のベテラン担当医は「痰について言えば、痰が出る咳を咳止め薬で簡単に止めてはいけない」と語る。
咳を止めると、気管支の中に痰が溜まりやすい。それは細菌感染の機会が増えることにつながり、症状が悪化する可能性が高くなるからだ。さらに、痰が全く出ないといっても、詳しく調べると気管支に絡んでいる場合があるという。
痰にもいろいろあって、色がついている場合は、気道(気管支の部分)に細菌感染があるといわれる。また喘息でときどき発作が起きる場合に出る痰には、その中に“好酸球菌”が増加しているといわれ、少し黄色味を帯びた膿性(のうせい)に見えるという。
「市販の風邪薬には咳止めが少量加えられているものが多いので、自分の判断で使う場合には注意が必要です。薬で咳を一時的に抑えることが出来ても、気道に痰が残っている場合がある。専門医を受診し、きちんとした診断の下に処方される薬を使うべきです」(前出・担当医)