まるで再生しすぎて、擦り切れたビデオでも見ているよう。大相撲春場所は横綱白鵬(31)の2場所連続、37回目の優勝が千秋楽を待たず、14日目に決定。またしても初優勝と綱取りの期待がかかった稀勢の里の悲願は叶わなかった。
「今度こそ、と胸を高鳴らせたファンも多かったんじゃないでしょうか。初日から12連勝し、その相撲内容も力強く、安定していましたから。ところがまた、これまで何度も煮え湯を飲まされている白鵬の壁を突き破れずに完敗。さらに翌日も横綱鶴竜にいいところなく敗れ、白鵬の逃げ切りを許してしまいました。館内は失望のため息が充満し、新横綱誕生で大相撲人気をさらに盛り上げようと目論んでいた関係者はガッカリですよ」(担当記者)
それにしても、白鵬戦の負け方はひどかった。わざと稀勢の里が得意な左四つで挑まれたにもかかわらず、横綱に土俵中央で豪快に叩きつけられた。
「今日の一番は、『勝つなら勝ってみい、それで横綱になってみろ』という感じだったんだけど、勝たなかった。何かが足りないんだろうね。横綱白鵬を倒すには日頃の行いが良くなければ。それしか思いつかない、今は」(白鵬)
このショックをひきずり、翌14日目の鶴竜戦も完敗した稀勢の里。この2連敗で慌てたのは場所前に「14勝か、全勝かのハイレベルの優勝でしょう。優勝しなきゃいかん」と話していた審判部幹部。その裏には、協会関係者の驚くべき心変わりがあったと明かす。
「実は二所ノ関部長(元大関若嶋津)を中心に、優勝しなくても14勝したら横綱に推す、ということが話し合われ、ほぼ決まっていたんです。これに対して硬派の藤島副部長(元大関武双山)が『私は不同意です』と席を立ったそうですが、二所ノ関部長は稀勢の里と同じ一門。いわゆる身びいきというヤツで、新しい目玉が欲しい協会の意向と相まって“14勝でも”となったようです」
しかし、残念ながら稀勢の里の2連敗で、この横綱強行昇格はご破算。それでも諦めない二所ノ関審判部長は、千秋楽に日馬富士を破り、なんとか13勝したことで「綱取りは来場所も継続する」と笑顔で宣言した。それも「とにかく優勝してくれればいい」と星数は問わないことにしている。
ここまで気を使われる稀勢の里の胸中は複雑だろうが、それにしても情けない日本人大関の面々だ。