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“それは語れば現れる” 妖怪「青行灯」

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画像はイメージです。

 昔から「怪を語れば怪に至る」という言葉がある。身の回りで起こった不可解な事、主に心霊がらみの事を話していると、実際にその場に幽霊が出たり不可解な現象が起きるというものだ。

 この言葉を証明するような例は、まるで心霊体験のテンプレートかと思えるほどによく聞く話だ。稲川淳二などの怪談ライブや夏場のテレビの怪奇特番の収録現場で異変が起きる、と言うのもよくある話だし、中にはリアルタイムで全国に放送されて話題になる事もある。

 これらの現象をキャラクター化したような妖怪が有名な鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』にある。それが『青行灯』という妖怪だ。行灯の後ろに浮き出る髪を振り乱した鬼のようなものが描かれており、灯が揺らめき、人の影は暗くはっきりと写っている時に、この『青行灯』は現れるのだという。なぜ“青”行灯なのかというと、江戸時代も百物語などの怪談の会をする時は雰囲気を出すために青い和紙を行灯に貼っており、その光のもとで産まれる妖怪なので『青行灯』と言うのだそうだ。

 今でも夏場の肝試しで開催される百物語は江戸の大奥で始まったとされており、行灯の前には大奥を暗に示すかのように、裁縫道具に文箱、くしにかんざしといった女性を連想させる物が置いてある。もっと単純に、『青行灯』が鬼女であるために女性に関係したものを並べた、とも考えられるが、実は『青行灯』なる妖怪そのものが出た、という話はほとんど残されていない。昔の人は、百物語をすれば百話目の後に必ず怪異が起こると信じており、怪異を避けるために百話目は敢えて語らず九十九話目でこれ以上話すのを止めてしまったからだ。

 伝承もイメージもほとんど伝わっていない妖怪『青行灯』。となると、鳥山石燕はどうやってこの妖怪を描いたのか、何故この妖怪を紹介しようとしたのか、という話になるが、やはり彼も『怪談会などの肝試し』を行うと『幽霊が出る』、その幽霊は『たいがい白装束で長い髪の女性』という「怪を語れば怪にいたる」までのテンプレートを妖怪として戯画化したのでは、という事が考えられる。実際、『青行灯』も頭に角がある以外は幽霊とよく似た外見である。

 鳥山石燕は『妖怪』と称して当時の出来事や風俗を風刺した絵を描いていた、という説があり、実際に『犬神』など風刺的要素の強い妖怪画も作品の中には多く含まれている。つまりこの妖怪についても、怪談の会で起こる一連の出来事を面白がった石燕によって生み出された妖怪なのでは、という見方も出来るのだ。

 この妖怪は、時代は変われど人が感じる物は変わらない、という事を証明しているかのようで、面白い妖怪である。

(黒松三太夫 山口敏太郎事務所)

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