一方、日産は「水素で起こした電気で走るのがFCV、予め充電した電気で走るのがEV。中身は共通」(執行役員)として、FCVが日産のEV戦略に沿ったものであることを強調し、来年中の発売を目指していることを発表している。
「FCVは、水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーを使いモーターを回して走る。有害な排気ガスをいっさい排出しない“夢のクルマ”です。ただ、現段階ではコストが高く水素供給インフラも整っていないのが現状。しかし、経産省が旗振り役となり、'30年までには80万台を普及させるという目標まで設定している。各社、切磋琢磨しているが、本当に水素社会が来るのか不安もあるようです」(業界紙記者)
トヨタ、ホンダ、日産の3社は今後、FCVの新たな需要創出・普及促進のために、水素ステーションの整備促進を図るという。
「'20年の東京五輪までに、政府と協調して水素ステーションの整備を後押しする。その充電環境づくりと車本体の普及を並行していかなければならない。果たして'20年までに量産体制に入れるのか」(同)
'30年には乗用車全体の5%前後がFCVになると経産省では考えている。販売される乗用車の20台に1台がFCVということになるわけだが、価格低下とセットでなければ普及は無理。平均700万円台の車体価格を'25年までにハイブリッドカーと同程度の200万円前後まで下げる見通しも立てているというが、果たして…。
ちなみにEVに関しては、日本で本格的に販売されたのは6年前。
世界初の量産型EVである日産『リーフ』が登場したが、'14年時点での国内保有台数は約7万台に留まっている。
エコカーを巡っては今、ハイブリッド車ブームが依然として続いている。トヨタは環境への対応を最重要課題の一つと位置付け、ハイブリッド車の普及にも取り組んできた。
「ハイブリッドカーの'15年の年間販売台数は約96万台。トヨタ『プリウス』が発売されたのは約20年前。累積販売台数が80万台を超えるまでに13年を要したが、トヨタの経営陣は普及期から、ハイブリッド車がエコカーの将来を担うと考えてきた」(前出・業界紙記者)
一方、「クリーンディーゼル」と呼ばれる新世代のディーゼル車も人気となりつつある。
「ロングドライブに適した走りと優れた環境性能から、ヨーロッパを走る車は2台に1台がクリーンディーゼルエンジン搭載車で、日本でも台数が伸びつづけている。マツダの『アテンザ』は人気で、牽引役となっています」(自動車業界営業マン)
果たして今後、主流となるエコカーはどれなのか。先の業界紙記者がこう続ける。
「環境性能はFCVやEVに劣るが、加速性や航続距離などといった走行性能に優れているのはハイブリッドカーです。しかし、究極を考えれば、やはりFCV。ハイブリッドやEVを睨みながら、FCVの技術開発と普及に力を注ぐ全方位でいかなければならないのが現状です」
EVとFCVを比較してみると、まずEVは充電に時間がかかり、航続距離が短いという欠点がある。その点、FCVは燃料電池という発電機を積んだEVとも言える。
とはいえ、水素社会が実現すれば、日本の経済も再び活気を取り戻すと言われ、政府も経済界も、水素関連の技術を確立するのに躍起になっているのだ。
「当然ですよ。資源のない日本はこれまで、技術によって経済大国を築き上げてきた。かつて繊維産業が栄えたが低価格の海外製品に押されて衰退し、その後、日本製の電気製品が世界を席巻したものの、中国や韓国の台頭によって極めて厳しい状況にある。自動車産業は世界のトップを走っているが、いつまでもこの地位を守れる保証はない。とすれば、これから日本を支えるのは間違いなく水素技術になってくる」(経済評論家)
政府や経済界が水素社会の絵図を描くのは、それが世界中で現実のものとなれば、日本の技術が再び世界を席巻することになるからだ。
「トヨタが開発した『MIRAI』という名前には、“クルマの、地球の、そして子供たちの未来のために”という思いがこもっており、水素社会にかける意気込みが感じられる」(前出・業界紙記者)
水素がエネルギーとして身近に感じられる環境づくりが重要なのだ。