何しろ、我が国は公共投資を'97年の橋本政権以降、減らしに減らし続けたわけだから、当然である。公共投資をやらない以上、その財源調達のために発行される建設国債発行残高が増えるはずがない。
2011年の公的固定資本形成(公共投資から所得移転となる用地費などを省いたもの)の金額は、20兆円強にまで減らされてしまった。ピークの'96年と比べると半分未満である。
しかも、2011年の公的固定資本形成の実績額は、何と32年前の1980年をも下回っているのである。内戦や革命でもやっていない限り、公共投資の規模が30年前を下回っている国など、世界中に日本ただ一国しかない。
さらに、公的固定資本形成対GDP比率は、今や4.5%前後にまで低迷している。この数値は、他の先進国と比較すると、フランスとほぼ同じになる。
欧州のフランスは固い岩盤上に国土が存在し、アルプスの一部の地域を除くと地震が発生しない。さらに、台風も来ない上に河川は広大な平野を「ゆったり」と流れていく。水害や土砂災害も発生しない。
フランスに赴く機会があったら、シャルル・ド・ゴール空港とパリ市内を結ぶ高速道路の高架脚を見て欲しい。まるでチョコレートを立てたように「薄い」のだ。
日本の高速道路と比較すると、フランスの高架脚はまるで「板」のように見える。だからといって、何らかの問題が発生するという話ではない。何しろ、フランス北部には地震が全くない。
それに対し、日本は世界屈指の自然災害大国だ。
日本国の国土面積は、世界のわずかに0.3%にも満たない。日本列島の面積は、世界の地表面積の1%にも達していないのである。
それにもかかわらず、世界で発生するマグニチュード6以上の大地震の2割は、この地で発生する。理由は、日本列島が「ユーラシアプレート」「北アメリカプレート」「太平洋プレート」そして「フィリピン海プレート」という、4つの大陸プレートが交差する真上に位置しているためだ。
そのため、我々の祖先は常に「震災」と向き合いながら、生きていくことを余儀なくされてきた。
また、日本列島は台風の通り道に位置している。さらに、国土が細長く、中央部には2000メートルを超える脊梁山脈がそびえている。結果的に、川の上流から河口までの距離が極めて短い。大陸諸国では、川は長大な距離をゆったりと流れ、海へと注ぎ込む。それに対し、我が国の河川は、まるで滝のように山頂から海へと流れ落ちてくる。
結果的に、台風や大雨が来襲すると、川の上流から河口までがすっぽりと豪雨域に入ってしまい、水害や土砂災害が多発する。
震災や水害、土砂災害に限らない。我が国では豪雪地帯に存在する大都市が複数あり、ときには火山も噴火する。台風や震災に限らず、豪風により交通機関がストップしてしまう事態にも頻繁に直面する。
加えて、地形的な問題もある。日本の大都市のほとんどは、軟弱地盤の上に位置しているのだ。大陸の諸都市のように、固い岩盤の上に大都市が築かれているわけではない。しかも、日本の大都市の「全て」は、河川の氾濫区域に存在している。
そんな日本の公的固定資本形成対GDP比率が、地震も台風もないフランスと並んでしまった。これはもはや、国家的自殺と言っても過言ではない水準なのである。
それにもかかわらず、12月16日に投開票が行われた第46回総選挙において、国土強靭化や防災、減災を目的とした公共投資拡大路線を掲げた自民党や公明党を、民主党や日本維新の会などが「公共投資はバラマキだ。古い土建屋路線に戻してはいけない」などと、20年近くも変わっていない抽象論で批判しまくった。
本当に愚かな連中だ。現実の日本では、公共投資が国民に危険が及ぶほどに減っているわけだが、この手のデータを彼らが示すことは決してない。
現在の日本はいまだに東北の復興を実現できず、次なる大震災(首都直下型地震、南海トラフ巨大地震)の危機に直面している。さらに、12月2日の中央自動車道笹子トンネルの事故でも明らかになった通り、インフラのメンテナンスも早急に進めなければならない。
自民党がデフレ対策の一環として「国土強靭化」を中心とした公共投資拡大路線を訴えたのは、これはまさに当然の話なのだ。
とはいえ、日本には公共投資をイデオロギー的に嫌う人が少なくない。彼らには「理屈」がないのだ。単純に「嫌いだから、嫌い」という態度で、公共投資を鼻から否定してくるわけである。
この種のイデオロギーに日本国民が煽られ、公共投資を減らしに減らし続けた結果、我が国は「国民が自然災害の脅威から守られない」国に落ちぶれようとしている。自民党や公明党が総選挙の公約に公共投資拡大を掲げたのは、当然すぎるほど当然なのだ。
世界屈指の日本において、イデオロギー的に公共投資を否定する連中は、人殺しも同然である。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。