「日野はトヨタの了解は得ているとしているが、実際のところトヨタは手放しで歓迎しているわけではないようだ。それでもライバルとの提携に一応目をつぶったのは、商用車メーカーが抱える複雑な事情と苦悩を、日野にしか打破できないと踏んだからでしょう」(業界関係者)
その事情と苦悩は、日野のようなトラックやバスを市場に出すメーカー全体がいま、直面する問題だ。
「流通業界が近い将来、今以上に深刻な人手不足とドライバーの高齢化が進むと予測し、対策に躍起になっている。これはイコール、商用車業界にも直結します。つまり、ドライバー不足でも対応できる自動運転化やEV(電気自動車)化に早急に取り組まなければ、企業自体の存続が危ぶまれるということ。加えて、ヨーロッパ各国や中国では、国内を走る車のEV化に向け大きく舵を切る宣言をしており、無人トラックによる高速道路走行などの実験に力を入れている。その技術にノビシロがある日野は、VWのトラック&バス部門と提携することによって、生き残りをかけようとしているのです」(同)
日野は、EV分野における小型バスなどで市場進出を試みているが、電動化、自動化で他の国内商用車メーカーにかなり先行を許している。例えば、三菱ふそうトラック・バスは昨年、『eキャンター』でEVトラックの量産化に成功し、ヤマト運輸やセブン-イレブン・ジャパンが導入の動きに出ている。また、いすゞ自動車でも昨年、小型EVトラックの『エルフ』を発表。まずはモニターで市場投入をする。
日野も巻き返しを図りたい状況の中、格好の提携相手として浮上したのがVWだった。
「VWは、'15年にVWトラック&バスを独立させるなどして商用車に力を入れ始め、'17年の世界新車販売台数は前年比12%増、20万台を突破する勢いを見せている。それでも、世界第1位の独ダイムラーには大きく水を開けられ5位の状態。電動化や自動運転技術でもダイムラーに負けていることから、提携先を模索していた。そんな折、VWが子会社化したスウェーデンのスカニアと過去に縁があった日野が模索していることを知り、にわかに提携話が進み始めたのです」(業界紙記者)
もっとも、国内商用車メーカーの外国企業との提携は、今回の日野が初めてではない。前出の三菱ふそうトラック・バスは、'03年に三菱自動車から分社化し、早い段階でダイムラー傘下に入っており、UDトラックス(旧日産ディーゼル工業)は'09年、ボルボトラック(スウェーデン)の傘下に入っている。しかし、これらの技術提携によって進むEV、自動運転化の今後の課題として残されているのは、何といってもバッテリーの強化だ。
「世界的に見ても、急速充電設備は十分に整っていない。これをバッテリーでカバーするとなると、現在の技術ではかなりの重量となり、積載量が減ってしまう。小型化に合わせ、1回の充電でガソリン車並みの走行距離が可能なバッテリー開発が求められているのです」(技術開発関係者)
例えばダイムラーは、イスラエルのストアドットというベンチャー企業への出資を決め、バッテリー開発に力を入れている。一方で日野も、トヨタやデンソー、マツダが共同出資で昨年設立したEV技術開発の新会社、EVシー・エー・スピリットに参加する。
こうした動きと並行して、世界のEV車の最先端を走る米テスラモーターズが同社初の商用車となる大型トラックを、'19年に実用化すると表明した。
「テスラのトラックは、予定では航続距離が500〜800㎞、しかも急速充電も可能という。ただ、このところテスラは生産問題や自動運転車の事故などでトラブル続きだけに、公表どおり開発が進むかは不透明。それでも他の商用車メーカーにとっては非常に脅威であり、本格参入に成功すれば商用車業界は激変を遂げるでしょう」(同)
そのテスラやトヨタをも脅かす存在として世界の自動車メーカーから注目を集めているのが、中国のEVメーカー最大手、比亜迪(BYD)だ。
「BYDも、商用車の事業拡大を狙っている。まさに乗用車も商用車も、EVを軸に今後3年間で、これまでの自動車メーカーの勢力地図が大きく塗り替わる可能性が高い。そうしたことから、日野のように親会社も兄弟会社も度外視した、生き残るための連携、合従連衡が今後、さらに活発化すると見られています」
そこから抜け出し、商用EVを制するのはどこか。