「奥村の父親がプリンスホテル時代の宮本慎也氏(44)の同僚ということで、ヤクルトはかなり早い時期から目を付けていました。レギュラークラスの内野手が少ないことに加え、左バッターも雄平が31歳、川端慎吾が27歳と高年齢化しつつある。右投左打の奥村は使い勝手もいいというわけです」(プロ野球解説者)
宮本氏の同僚の息子というのが、大きな決め手になったようだ。
今オフのヤクルトは球団史上最大の補強に踏み切った。FAでロッテのエース成瀬善久(29)と3年総額6億円、日ハムの大引啓次(30)と3年総額3億円の契約を結んだ。さらにMLBのレッズに在籍していたローガン・オンドルセク投手(29)も加わり、総額で10億円を超える大盤振る舞いとなった。これまでのヤクルトといえば補強には消極的で、FA制度で獲得したのは2008年の相川だけだった。
「近年、本社はフランスの乳製品メーカー『ダノン』による株取得に悩まされてきましたが、それもある程度落ち着き、球団に資金をまわせるようになったんです。衣笠剛球団社長も日大の後輩である真中満氏(44)が監督に就任したことで支援体制を決めました」(ベテラン記者)
14〜15年オフで補強に成功したセ・リーグ球団はヤクルトと広島だけだ。優勝チームの巨人は相川と金城龍彦(39)を加えた程度で、2位の阪神は手を出した補強に全敗したと言っても過言ではない。だが、前年上位チームほとんど補強してないからといって、15年ペナントレースでヤクルトが抜け出せる確証はどこにもない。怪我をしている選手がどこまでやれるかという不確定要素が多すぎるからだ。
「故障で長期離脱した館山、小川、由規が復帰できるか。ベテランの石川にこれ以上の上積み(10勝以上)は期待できない」(前出解説者)
弱点だった先発スタッフは成瀬とドラフト1位の竹下真吾(24)を加えたものの、不安視する声のほうが多い。
「技巧派の成瀬は狭い神宮球場では、対戦チームの餌食にされそう。セ・リーグの打線はチーム打率2割7分9厘のヤクルトばかりが注目されたが、巨人、広島、阪神、DeNAの打撃陣は潜在能力が高い」(同)
ここまで大型補強をしたにも関わらず、ペナント奪取を逸した場合、ダノン社による株買収で揺さぶられたヤクルト本社も、球団を持ち続ける意義を真剣に検討してくるだろう。
「万が一の有事の際には、監督が真中よりも宮本氏の方が買収先のウケもいい」(関係者)
奥村獲得は将来の宮本体制に向けての布石とも解釈できる。奥村獲得で次期監督の土壌作り、宮本氏の知名度とクリーンイメージで“有事”に備える。まるで、三段跳びの助走のときのような構えだ。
まだ公式戦で采配を振るってもいないのに、次期指揮官の名前がチラ付く真中監督の胸中は複雑だろう。