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欠航ラッシュ! 格安航空会社LCCの非常事態 パイロット不足で視界ゼロ

 日本に格安航空会社(LCC)が相次いで誕生し、「LCC元年」と言われたのは2012年だった。それから2年、早くもLCCへの信頼を揺るがしかねない問題が噴出した。深刻なパイロット不足による欠航ラッシュだ。

 ANAホールディングス傘下で関西国際空港を拠点にするLCCのピーチ・アビエーションは5月20日、10月までに予定していた国際線と国内線で最大2128便が欠航すると発表した。欠航便は1カ月前の4月24日に発表した時点に比べ56便増えている。
 世間が目を剥いたのはその理由である。4月末には「現在52人の機長が在籍しているが、病気やケガが相次ぎ8人が乗務できない上、今春に予定していた機長の採用も当初見通しを下回った」と釈明した。5月になって欠航便が増えたのは「機長として運航乗務に当たる予定だった訓練生2人が5月上旬に退職した」のを理由にしている。

 成田空港を拠点にするバニラ・エアも5月16日、機長不足を理由に成田-那覇線と成田-新千歳線の一部を6月に154便欠航すると発表した。記者会見した石井知祥社長は「機長が26人必要だが、採用が予定通り進まないところに想定以上の退職者が出たことで3人不足する」と打ち明け、「後発で実績が少なく、採用競争力が弱かった」と釈明した。同社はアジア最大のLCC、エアアジア(マレーシア)とANAホールディングスの合弁会社エアアジア・ジャパンとして'12年8月に就航したが、経営戦略を巡る対立から合弁を解消、昨年11月にANA100%子会社のバニラ・エアとして再出発したばかりだ。
 一方、'12年7月に就航したJALグループのジェットスター・ジャパンは5月21日、パイロット不足とは別の理由で、6月上旬に予定していた国内線101便の欠航を発表した。関空の第2拠点化に伴い進めていた整備基地の運営準備が間に合わないためだという。

 それにしても、LCCで相次ぐ“非常事態”が表面化した理由は何なのか。
 驚くべき試算がある。国際民間航空機関(ICAO)によると2030年の機長需要は世界ベースで'10年比2倍超の98万人。とりわけ今後の需要が伸びるアジア太平洋地域は'10年比4.5倍の23万人が必要になる。これに追いつくには新たに年間1万4000人のパイロットが必要だが、現実に養成できるのは5000人程度とあって争奪戦は熾烈化する。

 その際、しわ寄せを食うのは大手航空会社に比べて待遇面で見劣るLCCだ。言い換えれば、将来のパイロット不足を見越した大手各社は「こっちの水は甘いぞ」とばかり、LCCの機長や操縦士の“一本づり”に余念がないのだ。その脈絡で捉えると、ピーチの訓練生2人が5月上旬に退職したのはわかりやすい図式である。
 「機長が病気やケガを理由に搭乗をキャンセルしたのだって、要は自主申告ですからね。こっそり面接試験を受けていたかも知れないし、どこまで本当かは怪しい限り。そもそもLCCは低運賃が売り物だから給与は大手に比べると見劣りする。もしヘッドハンティングで破格の給与を提示されたら、誰だってグラッとするでしょう」(航空関係者)

 パイロットの平均年収はANAが2000万円弱。一時国有化されたJALは1500万円前後。これに対し、LCCは企業間で多少のバラつきがあるにせよ1300万円前後とされる。われら庶民には高嶺の花だが、確かに「グラッとする」ほどの給与格差である。

 そんな折も折、4月28日には那覇空港に着陸しようとしたピーチ機が海面ギリギリまで異常降下するトラブルが起きた。操縦桿を握っていたアルゼンチン国籍の男性機長は「管制官から降下の指示が出たと勘違いした」と釈明したが、一歩間違えれば大惨事になるところだった。
 LCCが直面するパイロット不足との因果関係は不明だが、これで危険と隣り合わせの異常飛行が続けば客離れが加速する。航空アナリストが言う。
 「パイロットを高給優遇しようにも、低価格競争の消耗戦を強いられているLCCには不可能です。これで大量欠航が定着すればイメージが悪化し、自分の首を絞める。だから『子会社の迷走に親会社は含み笑いをかみ殺しているだろう』との皮肉さえ聞かれます」

 アジアのLCC勢に対抗すべく新規参入した当時、JALやANAは「庇を貸して母屋を取られなければいいが」と陰口された。客が流出して屋台骨が揺らぐとの見立てである。ところがLCCが早々と乱気流に突っ込んだことで、それも杞憂に終わりそう。業界事情に精通するこのアナリストは「JALやANAは将来的に切り捨てるのではないか」と冷ややかだ。
 LCCは仇花だったのか。

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