search
とじる
トップ > その他 > やくみつるの「シネマ小言主義」 ★悲劇7割、喜劇3割の家族の物語 『鈴木家の嘘』

やくみつるの「シネマ小言主義」 ★悲劇7割、喜劇3割の家族の物語 『鈴木家の嘘』

pic pic

提供:週刊実話

 岸部一徳、原日出子、岸本加世子、大森南朋という濃い出演メンバーを見て、喜劇色の強い映画だと気楽に行くと、ズシンと重い映画だった…となりかねません。悲喜劇とはいうものの、笑い飛ばすわけにはいかない事情がこの家族にはあります。

 感想を一言にまとめると「自殺だけはいかんよ」ということになりますが、最近、自分のプライベートの知人にも自殺された方がいます。表向きは病死ということになっていますが、ご家族としては、やっぱり公表しにくいものですよね。

 思い返してみると、これまで自分の周りで自殺によって亡くなった人は、結構、指が折れるほどの数がいます。自殺大国日本だけあって、残念ながら、珍しいことではなくなってしまいました。

 パンフレットによると、デビュー作である本作の脚本執筆のきっかけも、監督の実兄の自死だったそうです。めったなことでは共有できそうにないテーマながら、すでにめったなことではなくなってしまった今、普遍的な主題として、正面から取り上げられるべきなのかもしれません。

 本作は、冒頭での長男の突然の自死の後、残された家族の心の再生と折り合いの付け方を、涙とユーモアを交えて描いていきます。

 何といってもそのカギは、並んで立っているだけで可笑しみを醸し出せるキャスティングの妙でしょう。

 そして、並み居るベテラン勢に交じって、一際光っているのが、400人を超える応募の中から選ばれた、妹役の木竜麻生さん。可愛いだけの子には出せない骨太の存在感のおかげで、話にリアリティーが出ています。

 リアリティーといえば、何といっても加瀬亮演じる、ひきこもりの長男が自室で首を吊るシーンです。真正面からどうやって撮っているのか。今までなら、ブラブラしている足先だけで表現するところを、この作品ではあまりにリアルに映すので、その姿を発見した母や妹の衝撃が、こちらに生々しく伝わってきます。一緒に見た妻と、「発見した方がキツイから、自殺だけはやめような」と再度、確認し合ったほどです。

 残された方は、たとえ親だろうと知り合いだろうと、死んでしまった人に対して「もっと何かできたのでは」と責め苦を感じます。

 私自身も実話の読者の皆さんも、いい年齢になってきて、少なからず葬式を出してきたと思います。生きている間に、何度も近しい人の死に際して苦しみ、何とか折り合いをつけているうちに、自分の番がやってくるとういうものなのかと、しみじみ思いますね。

画像提供元:(C)松竹ブロードキャスティング
----------------------------
■『鈴木家の嘘』
監督・脚本/野尻克己 出演/岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋 配給/松竹ブロードキャスティング、ビターズ・エンド 11月16日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー。
■ひきこもりだった鈴木家の長男・浩一(加瀬亮)が突然、自殺をした。そのショックで記憶を失ってしまった母・悠子(原日出子)のため、父・幸男(岸辺一徳)と長女・富美(木竜麻生)が「仕事のためにアルゼンチンに旅立った」と嘘をつく。最初こそ、ひきこもりだった浩一が世界に飛び出していったという、母をかなしませないためのやさしさだったが、次第に後悔の念が生まれ始め…。
********************
やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中

その他→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

その他→

もっと見る→

注目タグ