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友成那智 メジャーリーグ侍「007」 ヤンキース「田中将大」サイヤング賞の可能性

 ヤンキースは今季、52勝52敗となった7月末の時点でポストシーズン進出を諦め、4人の主力選手を放出。同時に3Aから有望株3人を引き上げて再建モードに入った。
 通常、再建モードに入ったチームは大きく負けが込むものだが、ヤ軍は逆の展開になった。8月以降25勝15敗と大きく勝ち越し、一度は諦めたポストシーズン進出の望みが出てきたのだ。

 その牽引役になっているのが田中将大だ。
 田中は8月2日のメッツ戦で6失点し敗戦投手になったが、それ以降の7度の登板は好投を続け、6勝して負けなし。それに伴い、投手成績の各ジャンルも軒並みトップレベルになり、サイヤング賞候補の1人に浮上している。
 田中は今季前半、味方の得点援護に恵まれなかった。そのため勝ち星はリーグ10位の13勝と伸び悩んだが、9月14日時点で総合的な貢献ポイントであるWARは1位タイ、防御率は3位だ。そのため地元ニューヨークのメディアはサイヤング賞受賞の可能性が出てきたことをさかんに記事にするようになった。

 好調の要因はどこにあるのだろう?
 一つは速球をツーシーム(高速シュート)主体からフォーシーム(通常の直球)主体に切り替えたことだ。昨年、田中はヒジや手首の影響でフォーシームの威力に欠け、一発病に陥った。そのため今季は、速球は一発リスクの低いツーシームを主体にしていたが、沈む軌道のツーシームと落ちる軌道のスプリッターでは軌道の差が小さいため、思うように空振りを取れなかった。そこで8月から速球を浮き上がる軌道のフォーシーム主体にしたところ、スプリッターとの軌道の差が大きくなりハイペースで三振が取れるようになった。
 フォーシームはツーシームよりコントロールしやすいため四球もほとんど出さなくなり、8月以降の8度の登板で出した四球は四つだけだ。

 好調であるもう一つの要因は、8月19日のエンジェルス戦からバッテリーを組むようになったルーキー捕手ゲーリー・サンチェスと相性が抜群にいいことだ。
 ルーキー捕手がエースとバッテリーを組むときは、相手打者の得意球と苦手球を考えたリードではなく、エースに気持ちよく投げさせることを優先することが多い。サンチェスも基本線はそこに置いているようで、テンポよくサインを出して田中の投球リズムをよくしている。
 リード面では田中に仕込まれた通り、フォーシームを見せ球に使ってスプリッターとスライダーの効果を上げるリードを見せている。
 サンチェスは名うての強肩であるため、盗塁阻止の面でも田中を助けることが多く、田中自身もサンチェスと組むと投げやすいと語っている。ヤ軍では第2捕手のローマインも田中と相性がいいが(バッテリー防御率2.16)、サンチェスと組んだ時の相性のよさはそれ以上(バッテリー防御率1.35)。よって、今季はシーズン終了までサンチェス相手に投げることになるだろう。それにより田中は大量失点するリスクが減り、最終的な成績はさらによくなる可能性が高い。

 では、田中がサイヤング賞を受賞する可能性はどれくらいあるのだろうか?
 今季ア・リーグは傑出した働きをした投手が不在で、サイヤング賞レースは団子レースになっている(表参照)。頭一つリードしているのは一昨年の受賞者でWARが1位タイのクルーバー(インディアンズ)、9月9日に早くも20勝に到達したポーセロ(レッドソックス)、最多セーブのブリットン(オリオールズ)の3人。それを僅差で追うのが田中将大、バーランダー(タイガース)、セイル(ホワイトソックス)、フルマー(タイガース)、ハメルズ(レンジャーズ)、キンターナ(ホワイトソックス)の6人だ。
 日本の感覚では最終的に22勝くらいいきそうなポーセロが断然有利で、15、16勝で終わりそうな田中は勝ち目がないように見える。しかしメジャーでは、勝ち星は重視されない。チーム間の得点力に大きな差があるからだ。実際、ポーセロの20勝はレ軍打線の強力な得点援護に支えられた面が強い(9イニング当たりの得点援護が6.97点)。

 田中がサイヤング賞に手が届くとすれば、次の三つが同時に起きた場合だ。
 1:最有力候補であるクルーバー、ポーセロ、ブリットンの3人が9月後半になって揃って調子を崩し、防御率がややダウン。
 2:田中が好調を最後まで維持し、防御率、ないし貢献ポイント(WAR)が1位になる。
 3:チームが田中の奮闘でワイルドカードゲーム(勝率2位と3位による1ゲーム・プレーオフ)に進出。
 この三つが、すべて実現する可能性は10%程度だろう。だが、現在3位(9月14日時点)の防御率で1位になる可能性は十分にある。そうなれば、サイヤング賞の最終候補(3人)の1人にはなるだろう。

ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。

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