ダルビッシュの現行の契約は、2012年から'17年までの6年契約(総額1億700万ドル=110億円)である。契約が切れるのは今季ではなく来季終了後だ。なぜ、まだ契約が1年残っている今オフに交渉を始めるのか?
その理由はハッキリしている。メジャーでは現行の契約が切れた時点で再契約の交渉が始まるのではなく、契約最終年のシーズンに入る前に、球団と代理人の間で再契約に関する突っ込んだ話し合いが行われる。そこで交渉がまとまれば、シーズン序盤に新しい契約内容が発表される運びとなる。
交渉がまとまらない場合は、7月末のトレード期限までに他球団にトレードするケースが多い。シーズン終了後にFAになって出ていかれると何の見返りもないので、大きな戦力ダウンに繋がるからだ。
しかし、シーズン中に他球団にトレードすれば、見返りに1、2年後にレギュラーに成長しそうなマイナーのホープを2、3人を獲得できる。そのためメジャーでは毎年7月末のトレード期限になると、契約最終年を迎えた大物選手が次々にトレードされる珍現象が見られるのだ。
では、ダルビッシュの再契約は、どれくらいの規模になるのだろう?
メジャー入りして5シーズンが経過したが、ダルは1、2年目はフル稼働したものの、3年目の'14年は8月中旬からシーズン終了までDL入り。4年目の昨季はトミージョン手術で全休。今季も稼働したのは半分程度だ。そのため5年間の勝ち星は46勝である(30敗)。日本のメジャーファンは勝ち星の多さを重視するので、その多くがこの程度の勝ち星では「2年30億円」「3年40億円」レベルの契約しかゲットできないのでは、と危惧しているようだ。では米国ではどのような予測が出ているのだろう?
アメリカのメディア関係者は、誰もがメガ・コントラクト(総額1億ドル以上の超大型契約)になると予想している。
「おそらくレンジャーズは最初に5年1億3000万ドル(137億円)くらいのオファーを出し、ダルビッシュ側も6年1億8000万ドル前後の希望額を伝えて妥協点を探ることになるだろう。最終的に6年1億6000万ドル(168億円)くらいで話がまとまるんじゃないかな」(スポーツ専門局の解説者)
6年1億6000万ドルで話がまとまれば、田中将大の7年1億5500万ドル(163億円)を超す日本人大リーガーの最高額になる。本当に実現すれば快挙のように思えるが、メジャーリーグのサラリー動向に詳しいアナリストは、もっと高額の契約になると予測する。
「この1、2年の間にカーシヨウ、プライス、グレインキー、シャーザーといった大物先発投手が次々に2億ドルを超す規模の6年、7年契約をゲットしている。ダルビッシュも彼らと同等の評価をされている投手なので、悪くても6年1億8000万ドル(189億円)、可能性が高いのは7年2億1000万ドル(221億円)前後じゃないかと思う」(野球専門サイトのアナリスト)
このアナリストが言うように、ダルビッシュは復帰後、以前と同様、トップレベルの先発投手と見なされるようになった。
通常、トミージョン手術明けの投手は球威も制球も落ちるので、評価が急落するものだが、ダルは逆で、リハビリ期間中に行った筋トレでパワーアップ。復帰後は以前より威力のある速球をビュンビュン投げるようになった。
そのため復帰後すぐにトップレベルの評価をされるようになり、9月下旬に人気野球サイト『ファングラフス』が出した『メジャーリーグの先発投手ベスト24ランキング』では7位にランクされた。これは今季レッドソックスに7年2億1700万ドルの超大型契約で入団したデービッド・プライス(10位)や、ダイヤモンドバックスに6年2億700万ドルの契約で入団したザック・グレインキー(24位)より高い順位だ。
それを考えれば、ダルが7年200億円規模の契約をゲットする可能性は十分ある。
ではダル本人は、レンジャーズに残留する気があるのだろうか?
テキサス州ダラスは夏場、高温と乾燥で打球がよく飛ぶため、レ軍に来た投手は成績が悪くなることが多い。それを理由にメジャーではレ軍で投げることを敬遠する投手が少なくない。しかし、ダルはホームでの通算防御率が3.23であるのに対し、ロードでの通算防御率は3.36で前者の方がいい。そのためダラスで投げることを全く苦にしていない。
球団に対する愛着も大きいダルビッシュ。レ軍より高額な契約を出す金満球団に移籍する可能性は低いように見える。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。