引退後の与田氏は'15年までNHKの野球解説者として活躍。その間、指導歴は故・星野仙一氏の求めに応じて楽天の一、二軍コーチを3年務めたくらい。それだけに、「意外な抜擢」と関係者を騒がせた。
だが、中日はヘッドコーチに西武、ロッテで監督を務めた伊東勤氏(56)を起用することが判明。伊東氏は西武で4年間指揮を執った後、解説者、韓国野球のコーチを経て、昨年までロッテで5年間監督を務めた。
6年連続Bクラスに終わった中日だけに、伊東氏の指導能力にチームの指揮を託した形だが、ならばヘッドコーチではなく監督起用の方が常識的に映る。
「伊東氏と西武時代にバッテリーを組み、兄貴的存在だったのが森繁和前監督。森氏は現場から身を引くのとバーターで伊東氏の監督就任を白井オーナーに訴えたようです。しかし、中日本社サイドは“次期監督はドラゴンズOB”で譲らず、ヘッドでの入閣で事態を収拾させたのです」(地元テレビ局幹部社員)
確かに与田新監督はチームの功労者には違いないが、「落合―森」を主流とする現在の中日にあって、亜流の感がぬぐえないのも事実だ。中日出身の野球解説者が舞台裏を明かす。
「ここで本命の山本昌が監督に就けば、この先10年は立浪、山﨑も監督となり、球団首脳が青写真を描く『松坂大輔監督』誕生の目がなくなるからだ。中日は松坂を獲得する際、実は“将来の監督”の約束手形を切っており、その経緯を誰よりも知るのが森さん。フロント入りした立場を使って、脱線しかかった軌道を修復させたのだろう」
森前監督と与田新監督(木更津中央高)は、同じ千葉県の出身。伊東ヘッドと松坂は西武時代にバッテリー組んだ仲と、3人は人脈的にもつながっている。
2、3年後、松坂が現役を引退すると同時に中日監督に就き、伊東ヘッドが引き続きチームを支える。その際、与田氏にはGMポストを用意するという構図だ。
観客動員力を背景に、松坂も将来の中日監督に意欲を見せている。だが、厄介なのは将来の監督候補のOB3人が3人とも「中二階」に追いやられ、不満分子になりつつあることだ。
白井オーナーは、黄金時代を築いた落合元監督に今なお全幅の信頼を寄せており、「森監督の次は小笠原道大二軍監督と考えていた」という。その次が、やっと生え抜きの森野将彦二軍打撃コーチ。これでは落合、谷繁元信、森と外様監督だらけになり、ファンの猛反発が予想されていた。
そこで山本、山﨑、立浪の3氏は「ドラゴンズの再建はドラゴンズ出身監督で」というファンの声を武器に、大島宇一郎中日新聞社長ら若手幹部を味方に付けて外様政権にピリオドを打つことに成功したのだ。
しかし、その生え抜き監督に、自分たちではなく、落合氏に近い与田氏が抜擢されたのは大誤算だった。次は松坂政権が透けて見えるだけに、それを阻止すべく、共同で内紛の火種を物色しているという。
「与田監督はWBC代表のコーチ経験こそあるが、プロ野球の指導経験はたった3年。それも今年は二軍投手コーチです。結局、実務は伊東ヘッドに丸投げと思われ、求心力を保てない。禊は済んでいるが、過去には不倫妊娠騒動も起こしている。監督という表舞台に立ったことで、新たなスキャンダルが発覚する可能性もある」(スポーツ紙デスク)
それに関連してか、中日は5人の現コーチと来季の契約を結ばないことを発表。そして来季の投手コーチには、与田監督の亜細亜大学時代の1年先輩で、現巨人三軍コーチの阿波野秀幸氏の招聘に動いている。
一方、与田監督と松坂は、前人未到の1000試合登板を果たし、今季で現役を引退したチームの大功労者、岩瀬仁紀氏(43)の取り込みを計っているという。
与田監督はNTT東日本、岩瀬氏はNTT東海の出身。ともに大学を卒業後、社会人野球を経てプロ入りした共通点もある。「松坂の次は岩瀬監督」を口実に岩瀬氏を陣営に引き込むことで、ドラゴンズの主導権を握れると期待しているのだ。
だが、新聞販売店からは山本昌、山﨑、立浪の監督就任を望む声が強く、これらの声も無視できない。今季6勝を挙げた松坂が来季は活躍せず、7連続Bクラスとなれば内紛勃発は必至だ。
「次の監督を目指す松坂にとって、一番の脅威は中二階の3人ではなく、実は岩瀬。指導経験がないとはいえ、中日本社も販売店もOB、ファンの誰もが一番の功労者と認めている。もし、与田監督が早期に退陣するようなことになれば、ポスト与田の一番手は松坂ではなく、岩瀬が本命に躍り出る。そうなると先の3氏が猟官運動に動き出す…。お家騒動は避けられそうにない」(前出・野球解説者)
ひとまず「生え抜きドラ一監督誕生」で急場をしのいだ中日。だが、舞台裏では火種が渦巻いている。