「昨年オフ、前広島の木村昇吾('16年西武在籍)がFA宣言した際、『お互い次のステップに進むということ』と広島側が発言しました。東北楽天にFA移籍した今江敏晃も『ウチは(FA)宣言残留は認めていない』と古巣ロッテが言い切りました。FA残留を認めない両球団の言動に選手会が噛み付いたのです」(ベテラン記者)
選手会は昨年末、球団側との事務折衝の場で抗議。「他球団の評価を聞く権利を阻害する」と訴えた。
これに対し、球団側にも言い分はあった。対象選手がFA権を行使して他球団の評価(提示年俸)を聞けば、慰留の条件として、通常査定以上の年俸増など好条件を提示し直さなければならない。宣言残留を認めない方針はマネー戦争阻止の意味もあったが、理論武装で権利阻害と言われたら、折れざるを得ない。
こうした“労働交渉”に加え、今季は多くの実力派選手が国内FA権を取得した。オリックス・糸井嘉男(35)、中日・大島洋平(30)、同・平田良介(28)、日本ハム・陽岱鋼(29)。さらに複数年契約の切れた西武・岸孝之(31)が提示された残留条件をいったん保留。DeNA・山口俊(29)には球団が『宣言残留の権利』を許可することにした。
「当初、巨人はFA市場を静観する予定でしたが、クライマックスシリーズ・ファーストステージでDeNAに敗退し、首脳陣にも危機感が強まりました。投手陣の再編成、打線強化…今オフのFA市場には巨人の穴を埋める選手が複数います」(担当記者)
つまり、FAの目玉である糸井獲得を巡って、金本阪神との一騎討ちになる可能性も出てきた。
去る10月12日、オリックスの福良淳一監督はシーズン終了のオーナー報告に出向いている。一時は途中休養も噂されたが、宮内義彦オーナーは満面の笑みで出迎え、同時に「ウチの中核、中心。残ってもらうように」と、糸井残留を改めて訴えていた。しかし、福良監督は「こればっかりは…」と顔をしかめた。実は同監督はその前日、数分だが、秋季自主トレ中の糸井と会談している。
「糸井は『考え中』といった感じでした。福良監督は残ってほしいとの気持ちを伝え、かつ『せっかくの権利なんだからよく考えろ』ともアドバイスしていました。糸井と福良監督は日本ハム時代から『選手とコーチ』の間柄で、特に糸井は信頼を寄せています」(在阪メディア陣の一人)
オーナー報告で出た言葉は、糸井の気持ちを代弁したのかもしれない。
阪神のFA補強案も二転三転している。当初は大島、平田の両中日外野手を優先的に考えていたが、「同じ関西」で「35歳で53盗塁、盗塁王」という糸井のタフネスぶりを惜しみ始めた。「彼の背後には金子千尋の代理人役も務め、阪神が苦手とする有名エージェントが控えていました」(同)というのも、これまで糸井獲得に二の足を踏んでいた理由だ。
糸井は日本ハム在籍9年、オリックスに4年となるが、家族をまだ東京に残している。今回の国内FA権取得を指して、「(行使するとしたら)最初で最後」とも話していた。先の「考え中」発言もそうだが、日ハム放出の遠因ともされた糸井の海外挑戦志望は「薄れた」との見方が強まってきた。
「糸井の現年俸は2億8000万円(推定)。3億円台半ば、3年以上の複数年契約から交渉はスタートするでしょう」(球界関係者)
阪神、巨人の一騎討ちとなれば“出来高プラス”で4億円台の交渉となる。
「阪神は昨年オフ、金本知憲監督の誕生でオフの話題を独占し、その勢いのままペナントレースに突入。負けても営業的には大勝利でした。今オフはこれといった話題もない。監督人事、ドラフトで話題を作れないとなれば、ファンの期待感を煽るためにもFA補強しかない。仮に糸井に4億円出したとしても、オフの話題作りに勝利すれば問題ないはず」(前出・関係者)
西武・岸の周辺も慌ただしくなってきた。3年契約が終わり、球団はすでに残留提示額を出したが、岸はそれを保留。終了した『2億2500万円×3年+出来高』(推定)よりもダウン提示だったと思われる。
「岸は宮城県出身。補強ポイントが投手陣の楽天が獲得レースに参戦するでしょう。投手補強が必須の千葉ロッテ、DeNA、そして巨人、阪神、さらにソフトバンクも参入しそう」(同)
岸に対しては米ブルージェイズなどが熱心に視察していた時期もある。しかし、2年連続で故障離脱したことで米球界側は撤収し、移籍するとすれば国内だけとなった。8000万円プラス出来高の山口俊も1億円台での交渉が可能だ。
伝統球団の巨人、阪神に自分を高く売り込めるチャンスは滅多にない。
水面下でのマネー抗争はすでに熾烈を極めつつある。(金額はすべて推定)