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再生か衰退か 震災の爪痕が残る 宮城・石巻「水産業復興特区」現地レポート(1)

 東日本大震災からの復興策として関心を集めていた『水産業復興特区』宮城県石巻市。特徴は、今まで優先順位の低かった「地元漁業者7人以上で構成される法人」などが、漁協(漁業協同組合)と同等に漁業権を得られるというものだ。

 今年4月、全国で初めて復興庁が認可し、ニュースでは「民間からの投資を呼び込み、スピード感のある復興が可能になる」と好意的に報じられた。しかし、この特区を巡っては、昨年から宮城県漁協のみならず、全漁連(全国漁業協同組合連合会)が猛反発していた。
 「漁協は組合員から魚介類を引き取って仲買人に売っています。これまでは法が定める優先順位に基づいて漁業権を事実上“独占”することで組合員を管理下に置き、生産調整や漁場管理を行ってきました。組合員が払う販売手数料が漁協の収益の大部分を占めるため、漁業権を失うのは死活問題です」(石巻漁協関係者)

 特区の対象となったのは、石巻市桃浦(もものうら)地区のカキ養殖業者15人がつくった『桃浦かき生産者合同会社』。この会社に水産卸大手の仙台水産が出資し、漁業権が与えられる。先の関係者が言うように、漁業権はこれまで漁協が一手に握ってきたが、特区認可によって、県は漁協を通じなくても企業に直接漁業権を与えることができるようになったのだ。
 この特区構想、元はと言えば、民主党政権当時に設けられた『復興構想会議』で宮城県の村井嘉浩知事が打ち出したものだ。当初から漁協の反対が強く、知事は問題を棚上げするかと見られたが、桃浦の合同会社設立が特区を後押しする形となった。昨年10月には、仙台水産が合同会社への出資を決め、合同会社は漁協の組合員としてカキの生産・出荷を始めていた。
 漁業者の高齢化や後継者不足で、もともと水産業の抱える問題は深刻になっていたが、そこへ震災が追い打ちをかけた。水産業の再生には民間企業の活力が欠かせないというのが特区導入の考え方だ。

 では、なぜ漁協は特区に反対するのか。宮城県でホヤの養殖をしている笠原さん(仮名)はこう語る。
 「企業は儲かっているうちは投資しますが、赤字が続くと撤退が早い。JF(全漁連)の下に県の漁協があって、そこで我々は仕事をしており、漁協は漁師一人ひとりの水揚げを管理し、事務代行や備品の管理などさまざまな役目を担っています。水産特区は漁協の下に入るのではなく同格にするらしいので、水揚げ分は漁協の管轄外になります。そして、漁場には特区の線(養殖海面の割り当て)を引くと聞きました。特区専用の漁場を設け、そこには特区の人しか入れない。縄張りみたいなものですよ」

 笠原さんによれば、ホヤは生でそのまま出荷するが、カキの場合は剥く工程があるため、保健所の指導によって建物の屋内でないと剥くことができないのだという。それ故カキの養殖と出荷には、ホヤよりも設備費がかかる。同じ養殖でも業種によって復興度合いが違うようである。特区の最大のメリットは、建物や資材等の準備に企業が投資するため、復興のスピードアップになるというわけだ。
 「会社が特区の漁師に給料を払う仕組みですから、海のサラリーマンですね。その中で、後継者を養成していくというのが知事の考え方のようです。給料がいくらになるのか知りませんが、今の若者にとってはその方が良いのかもしれません。ただ、特区の話が出る前は、合同会社も漁協を通して出荷していたのだから、そのやり方でできるはずなんですけどね。震災で似たような被害を受けた岩手では、知事は特区だなんて言わないし、宮城県だけですよ」

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