逆転Vに向け、3連勝が絶対条件だった首位巨人とのラストマッチ初戦(9月9日)、阪神タイガース坂井信也オーナーは甲子園球場正面の関係者入り口を出たところで、一部ファンからこう痛烈な野次を浴びた。
4回までに8点を奪われるという試合展開に、トラ党のイラ立ちも限界に達したのだろう。
さらに甲子園での広島戦(9月13日)、カープの新人・田中広輔に2ランを浴びると、真っ赤に染められた左翼席に呼応して、トラ応援団がバンザイコール。好投を続ける大瀬良への応援にも同調する始末…。
その理由もわからなくはない。この日は5-17のスコアという歴史的大敗。1試合17失点はチーム10年ぶりで、聖地・甲子園に限っては64年ぶりの屈辱だったのである。
和田豊監督(52)は「ファンへの謝罪」と「心機一転」を繰り返していたが、“クビ”はすでに覚悟している。球団フロント、親会社も後任人事を進めているのは間違いない。
「いったんは続投を公式に示唆しました。優勝争いに加わっていましたから。関西メディアの論調は『Aクラス死守で本社サイドに和田続投を認めさせたい』ですが、実際は違います。本社、球団フロント、そしてメディアの本音は“新監督招聘の大義名分”という空気を欲しているのです」(球界関係者)
和田体制をまず揺らしたのは、『掛布一軍コーチ入閣』の一報だった。報じられたのは9月2日。同日は和田監督の誕生日であり、掛布雅之GM付育成&打撃コーディネーター(DC)に対する関西財界の反応を確かめる意図もあったようだが、この時点で続投の方向だった和田監督を動揺させる目的もあったらしい。
後任リストに挙げられたのは、岡田彰布元監督(56)、OBの金本知憲(46)、矢野燿大(45)の両氏、平田勝男二軍監督(55)。掛布雅之DC(59)も「ゼロではない」という。
「若さ、ファンの期待で考えるのなら、金本、矢野で冒険するのも悪くない。阪神同様、来季の新監督招聘で仕切り直す方向のヤクルトは40代の真中満打撃コーチを昇格させますし、広島も45歳の緒方孝市・野手総合コーチの昇格が噂されています。“大魔神”佐々木主浩のDeNA監督就任説もあり、中日は43歳の谷繁元信兼任監督が頑張っている。金本、矢野は現役の虎ナインにも人望があり、本社ウケもいいですからね」(在阪記者)
しかし、阪神は優勝しなければならない。最下位争いの常連で、ファンもそれを自虐的に楽しんでいたころとは違うのだ。今回、和田監督の続投を許さないのもその一環だ。
「優勝の二文字に敏感なのが、南信男球団社長です。2007年7月に着任しましたが、以後、チームは一度も優勝していません」(トラ番記者)
親会社・阪急阪神ホールディングスの“主体”は阪急だ。阪神出身の同社長は親会社の取締役を退任しており、このまま行けば球団社長の地位も危うい。従って、次期監督には是が非でも優勝してもらわなければならないのだ。指導者経験のない金本、矢野両氏よりも“岡田優勢”とされた理由は、ここにある。
「南社長の相談相手は中村勝広GM。中村GMの長所は面倒見の良さです。母校・早大の後輩として、岡田元監督をかわいがってきたし、掛布DCも『千葉県の後輩』と言って面倒を見てきました。金銭スキャンダルで窮地にあった掛布DCに解説の仕事を仲介し、球団に復帰させたのも中村GMです」(前出・関係者)
掛布DC、岡田元監督の両方に顔が利く−−。この2人が同時にタテジマを着ることになっても、中村GMの手前、表立った“衝突”は起きないだろう。
「阪急出身の親会社要人は掛布DCを推しています。打撃指導がわかりやすく、選手内にもシンパが広がっているのは間違いありません」(前出・在阪記者)