業績悪化で悲鳴を上げるシャープが、EMS(電子機器の受託製造)で世界最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業グループ4社に、来年3月までに669億円の第三者割当増資を行う。これでホンハイは9.88%の株式を保有し、筆頭株主に躍り出る。同時にホンハイの総師である郭台銘氏は、シャープの主力工場である堺工場(大阪府堺市)を運営するシャープディスプレイプロダクトの株式46.5%を660億円で取得、堺工場はホンハイとの共同運営となった。
シャープが打ち出した窮余の生き残り策に、冒頭の市場関係者は「最初に出資比率を控え目にして当事者の警戒心を解くのは乗っ取りの鉄則。救いの神と思ったらトンデモない」と警告する。
過去の例として2002年の5月、経営難に陥ったスーパーの西友は、米ウォルマートと提携して5%の出資を仰いだ。それが年末には36%に高まり、次第に保有比率を高めて'08年4月には完全子会社に組み込まれた。今回、一部の経済メディアはシャープに対して「苦渋の決断」「懸案解決の“ウルトラC”」などと自力再建へのエールを送るが、外資の軍門に屈した西友の轍を踏まない保証はない。
その点、直接の影響を受ける個人投資家は正直で、インターネットの掲示板には早くも「中国企業に食われる」「エルピーダメモリーの次はシャープか」などの物騒な書き込みさえある。
そんな渦中の4月10日、シャープは今年3月期の業績見通しを下方修正した。期初、2月末に続いて3度目の非常事態で、収支トントンと見込んだ営業利益は400億円のマイナス、最終赤字に至っては2900億円の予想から3800億円に拡大した。過去、最悪の決算である。
同社の担当役員は記者会見の席で「見通しの甘さがあった」と釈明したが、大手証券マンは額面通りに受け取らない。
「液晶テレビ事業は不振を極め、堺工場は1月から稼働率を5割まで下げている。従って3月末にホンハイとの提携を発表した時点で、シャープが大幅な下方修正を意識しなかったわけがない。もし順序が逆だったらホンハイはもっと強硬に出たに違いありません。聞くところによると、今回の最悪決算を知った郭台銘氏は『そうだったのか』と苦虫をかみ潰したような表情を浮かべたそうです」
1974年創業と極めて浅い歴史にもかかわらず、ホンハイは米アップル社から「iPhone」や「iPad」の大部分の生産を受託することで急成長を遂げた。いまや売上高約10兆円企業で、日本の電機産業を代表するパナソニックやソニーを上回り、2.4兆円のシャープとは、実に4倍以上の開きがある。