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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第1回「デフレと情報の歪み」

 現在の日本の様々な問題が解決できないのは、日本社会における「情報の歪み」が原因である。マスコミで流される各種の情報に歪みが生じており、結果的に世論や政治家が間違いを犯し、状況を悪化させることを続けているのだ。
 典型的なのが「経済関連」の問題になる。財政の悪化、若年層失業率の上昇、国民の所得減少、円高、社会保障の不安定化、さらには少子化や安全保障の危機に至るまで、全てはカタカナ三文字で表すことができる「真の問題」が主因なのである。
 すなわち「デフレ」だ。

 デフレで物価が継続的に下落する国は、GDP(国内総生産)が伸び悩む。実は、GDPとは国内の「生産」の合計であると同時に、国民の「所得」の合計でもある。モノやサービスが生産され、誰かがそれに対し消費や投資として支払いを行ったとき、はじめて所得が生成されるためだ。というわけで、デフレでGDPが伸びない国においては、国民の所得も伸び悩む。
 しかも、企業の投資意欲が乏しくなり、それどころかリストラが進展するため、国民の所得は物価以上のペースで下落していく。'98年のデフレ深刻化以降、確かに日本の物価は下がり続けているのだが、それ以上のペースで平均給与が落ちていっている。物価水準以上に所得(平均給与)の下落幅が大きいということは、要するに日本国民が次第に貧乏になっていっているという話である。

 デフレ環境下では、企業は設備投資を増やさない。理由は果敢な設備投資をしても、儲からないためである。結果、労働者が雇用される機会が減り、失業率が上昇する。
 さらに、基本的に政府の税収は「所得」から支払われる。読者も給与所得などから所得税や住民税を支払っているはずだ。税収の源泉は、国民の所得なのである。というわけで、デフレで国民の所得が拡大しない国は税収が減り、財政がひたすら悪化していくことになる。
 現在の日本の財政が悪化しているのは、デフレで国民の所得が伸びないためであり、「消費税が5%と低いから」といった理由からではない。ちなみに、すでに事実上のデフォルト(債務不履行)状態にあるギリシャの消費税は23%だ。消費税率と財政の悪化には、ほとんど因果関係がない。

 さて、世間は現代の若者に対し「元気がない」だの「草食化している」だの、勝手な悪口を言っている。若年層失業率が高まり、所得が増えない以上、若者に元気がなくて当たり前だ。また、失業率上昇と所得下落という二重苦の中においては、若い世代は結婚や出産に踏み切れない。結果、デフレの国では少子化が進む。
 現代の日本に限らず、例えば史上最悪のデフレ期であった世界大恐慌期のアメリカでは、出生率が25%も下がってしまった。また、現在のアメリカでも、リーマンショック後に低所得の若者世代が結婚できなくなっており、婚姻率が下がってきている。

 世の中には面白い人がいるもので、現在の日本が「少子化だからデフレ」と主張したりする。バカバカしい限りだ。「少子化だからデフレ」が正しいならば、日本は少子化が継続する限り、延々と物価が下落を続けるという話になってしまう。すなわち、インフレには決してならないわけだから、通貨発行し放題である。日本政府は支出の全てを日銀の通貨発行で賄い、無税国家になれてしまう。現実には「デフレだから少子化」が正しいのだが、因果関係を逆さまにして「出鱈目」を平気で主張する論者が後を絶たないわけだ。
 また、物価が下落するとは、反対側から見れば通貨価値が上昇するという話になる。国内のモノやサービスに対し通貨価値が上がる状態をデフレと表現するわけだが、「外貨」に対して日本円の価値が高騰する現象は円高だ。すなわち、円高とデフレは同じ「通貨価値が上がる」現象の表裏なのである。現在の日本は「デフレで円高」なのではない。「デフレだから円高」が正しいのだ。すなわち、我が国はデフレから脱却しない限り、円高問題を解決できない。
 逆の言い方をすれば、日本はデフレから脱却しさえすれば、円高、雇用環境の悪化、所得減少、少子化の進展、財政の悪化といった問題を一気に解決できるのである。また、我が国のデフレ局面が終了し、名目GDPが順調に拡大する局面を迎えれば、税収増により社会保障が安定化する。さらに、GDPに連動して自動的に防衛費も増えていくため、安全保障も強化される。

 上記の諸問題を小手先で解決しようとしても、無駄である。根っこにあるデフレを何とかしない限り、そこから派生した問題もまた解決できない。それにも関わらず、財務省は増税や公共事業削減といった、物価を押し下げる「デフレ促進策」ばかりを推進しようとしてくる。さらに、経済学者たちは「規制緩和」「民営化」「TPP」など、やはり物価を下落させるデフレ促進策を声高に主張し、情報を歪めていく。
 日本の「根っこの問題」であるデフレを解決するには、国民一人一人が「国民経済」に関する正しい知識を身に着け、情報の歪みを正していかなければならない。さもなければ、現在の日本が抱える各種の問題が解決される日はやってこないのだ。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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