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米ゼロックスの買収拒否で激震 富士フイルムが嵌まった交渉混迷の行方

 今年1月に富士フイルムホールディングス(HD)が社運をかけて打って出た、米ゼロックスの買収計画が暗礁に乗り上げている。
 「これで業界の間では、カリスマ経営者と誉れ高い古森重隆CEOの経営手腕について疑問視する声も上がり始めている。一方、むしろ買収が失敗に終わった方が結果オーライとの見方をする経営アナリストらも多い」(経済誌記者)

 富士フイルムHDのゼロックス買収計画のいきさつについて、事務機器業界関係者がこう説明する。
 「富士フイルムHDが75%保有していたゼロックスとの合弁会社・富士ゼロックスの株式を、富士ゼロックスが借入金6700億円を元手に買い上げた上で、富士ゼロックスがゼロックスの100%子会社となる。ゼロックスは、この買収がらみで自社の株主への融和策として、日本円で約2700億円の特別配当を株主に支払い、後に第三者割当増資を実施。それを、富士フイルムHDが富士ゼロックス株式売却で得た6700億円を使いゼロックス株の50.1%を取得することで引き受け、経営権を得る。これで富士フイルムHD側は資金を使うことなくゼロックスを支配下に収める予定だったのです」

 この計画は当初、今年中に完了すると言われていたのだが、そこへ突如、待ったがかかる。ゼロックス大株主で投資家のカール・アイカーン氏らが「ゼロックスの1株があまりに過小評価だ」と買収に猛反発し、2月にニューヨーク裁判所に差し止めを求める訴えを起こしたのだ。そこからは二転三転、日本時間で5月14日、ついにゼロックス側が白紙に戻すことを発表したのだった。

 そもそも、古森氏ら経営陣がこの計画に躍起になっていたのには理由がある。
 「富士フイルムHDは、デジカメやスマートフォンの普及により、フィルム事業の売上が加速度的にダウンして“倒産”の二文字がチラつきだしていた。それを救ったのが、2000年にトップに就いた古森氏。脱フィルムへの大胆な転換戦略で、医薬品や化粧品が含まれるライフサイエンス事業に比重を置いたのです」(関係者)

 '06年に化粧品市場、'08年には富山化学工業を買収し医薬品事業に参入。またフィルム事業では、断行した5000人規模のリストラが功を奏し、'07年度に業績がV字回復。“古森伝説”が生まれた。
 「以降もリストラなどによってリーマンショックを乗り切り、'10年度には黒字転換。'13年度で初めて売上額が2兆4000億円に達したものの、以降は伸び悩んでいた。'17年度に至っては、大幅減益を予想しているほどです。ここを脱却できなければ、今後は再びジリ貧状態に陥る可能性が高い」(同)

 そのため古森氏は最後の大仕事として、ゼロックスと富士ゼロックスの合併による合理化で、1万人規模のリストラを断行。その余剰金で、さらにライフサイエンス事業に力を注ぐ方針を固め、今回の買収への動きに出たのだ。

 古森氏は、あるメディアのインタビューで「今後、人類を脅かす感染症に対する薬剤や、がんやアルツハイマーなど、いまだに解決法がないアンメット・メディカル・ニーズの高い薬剤の開発に注力したい」と夢を語っていたが、一方で医薬品業界は、老舗の武田薬品でさえも新薬開発で苦難を強いられている。
 「新薬にかかる開発費は約1000億円と言われ、開発期間も10年かかることはザラ。しかも、投資と時間をかけたからといって、それが成功するかどうかも分からない。そのため富士フイルムHDは、実績のあるゼロックスの医療画像診断機器、写真フィルム技術の液晶機器用フィルム事業、今もアジアで堅調な事務機器をベースに、確実に現金を稼がなければならない。加えて買収によって事務機器で世界トップとなり、事業再編と合理化で、さらなるリストラを進める必要に迫られていたのです」(前出・経済誌記者)

 しかしゼロックス側は、伝統を持つ企業買収に一銭も持ち出さない富士フイルムHDの姿勢に不満がくすぶり続け、大株主たちが高値での買い付けを突きつけたのだ。
 「ゼロックスの現在の1株は28.46ドル(5月7日時点)。それをアイカーン氏らは、40ドル以上で買い取るなら検討するとしているが、富士フイルムHDとしては現段階(17日)では完全なノーだろう」(関係者)

 証券アナリストは、こうも指摘する。
 「ゼロックスの将来性はマイナス要因が多すぎて、富士フイルムHDの買収案には懐疑的な声も多かった。それだけに、白紙となって返ってよかったという見方もあるのです」

 ただし、どちらに転んでも富士フイルムHDに苦難の道が待ち受けていることは確かだろう。

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