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ダービー ホウオー磐石の布陣

 いよいよ2004年に、この世に生を受けたサラブレッド8470頭の頂点を極めし「第74回東京優駿(日本ダービー)」(JpnI 東京芝2400m)まで、残り3日と迫った。普段は沈着冷静なホースマンも競馬の祭典を前にこの時ばかりは心躍らすが、その誰よりも煮えたぎる熱い闘志を胸の内に秘めるのは松田国英調教師だ。大本命フサイトホウオーを一生一代の大舞台に自信を持って送り込む。
 2005年夏のセレクトセール。いまや世界のセキグチとして名高い関口房朗氏が、「この馬でダービーを」の号令の下、1億5000万円のお代をつけられ、フサイチホウオーは落札された。
 その“至上命題”はタニノギムレット、キングカメハメハで2度も頂点を極めた名将を奮い立たすと同時に、預かった人間にとてつもないプレッシャーを与えた。
 そんな陣営の苦悩を知ってか知らずか、当のホウオーは左にヨレたり、右にヨレたり…。右往左往のレースぶりながらも、師がダービーを2度制した経験から得たという必勝ローテ、新馬→東スポ杯2歳S→ラジオNIKKEI杯2歳S→共同通信杯のエリート路線を無傷の4連勝で驀進(ばくしん)し、名実ともに堂々のクラシック最有力候補に躍り出た。
 ところが、皐月賞では初めての辛酸をなめることになる。「ダービーが目標だからといって、皐月賞を負けてもいいということにはならない。もう少しうまく乗ってくれていれば」。松田国師は納得いかず怒りをブチまけたが、負けて得るものも大きかった。
 とても届かないような位置取りから最後は1、2着馬とクビの上げ下げまで持ち込んだ末脚は中団からチョイ差しのイメージが強かったそれまでのホウオーを一新するレースぶり。「これまでまだ一度も本気で走っていない。もう一段どこかにギアがあるはず」。名手・安藤勝が探し求めていた“臨界点ギア”は皮肉にも、この敗戦を機に覚醒した。
 「ホント、今までとは全然…何かが違った感覚だった」。ジョッキーが感嘆のため息を漏らしたその豪脚は「間違いなく東京の二四に合う」の言葉を聞かずとも、ダービーはこの馬で決まり!の思いを深く脳裏に刻ませた。
 昨23日の最終調整も無事完了。コンビのアンカツが、「今までの調教で一番いい感触。相手がどうのこうのより、自信を持って乗りたい」と絶賛すれば、愛馬の追い切りをひと目見ようと栗東まで足を運んだ関口会長も、「鉄板以上に堅いな。(フサイチ)コンコルドや(フサイチ)ペガサスと同様に、またダービーとベクトルが合った。100%に近い確率で勝つ。もうオレは勝ったつもり」と進軍ラッパを吹き鳴らした。
 一方、「仕上がりに関しては、自分の思い描いた通りの到達点にきました」と胸を張った記者会見からわずか24時間後、ダイワスカーレットの熱発回避を伝えざるを得なかったオークスの悪夢の後遺症か、トレーナーは「馬は一頭、一頭それぞれにテーマがあり、扱い方も違えば個体差もある。だからダービーを2つ勝っているといって、3つ目が転がり込んでくるわけではない」と言葉を選ぶように話したが、誰がどう見ても皐月賞で一番強い競馬をしたのはホウオーだ。
 「あとひと押し、皆さんの応援をいただきたい」と嘆願しなくとも、最も厚い支持を受けることは確実。フジビュースタンドが揺れるほどの大声援が、必ずやホウオーの末脚を臨界点に導くに違いない。

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