北朝鮮の今回の軍事パレードで戦闘車両の最後を飾ったのは、戦略地対空ミサイルシステム『ポンゲ(稲妻)5』だ。これは10年以上前から開発が続けられている防空システムで、ソ連が生み出した『S300PMU』地対空ミサイルおよび、その改良版をベースとして開発されている。
「これも開発課題はまだいくつも残っており、人民軍が全面的に導入できるようになるまでには、まだしばらく時間がかかりそうだといわれます。韓国空軍の『F15』は空中戦用タイプではなく、対地ミサイルなどを運用する兵装士官を乗せるために複座にした『F15E』の韓国バージョンです。同機は11トンのミサイルや誘導爆弾を搭載できる爆撃機ですから、北朝鮮空軍は太刀打ちできず、通常兵器では勝負にならないからこそ費用対効果が大きい核・ミサイル開発に向かったといえます。しかし、ポンゲが実戦配備されるようなことがあれば、韓国空軍の優位性が揺らぐ恐れが出てきます」(同)
現在の南北間の通常戦力を比較すると、北朝鮮が倍近い規模の地上戦力を有するものの、航空戦力を含めた各種兵器の性能は韓国軍が圧倒している。そのため、在韓米軍の直接的支援がなくても、朝鮮戦争初期のように韓国軍が釜山まで追い込まれるようなことはあり得ない。
しかし、それはあくまで“従来型の通常戦力”のみでの計算にすぎない。北朝鮮の大量破壊兵器と弾道ミサイル戦力は通常戦力の劣勢を補うために開発されたものだが、通常戦力の向上とその役割は北の総合的なエスカレーション・ラダー(事態エスカレートの梯子)の中に組み込まれており、決して侮れない。
「8月1日に米議会で決議された『国防権限法』により、終戦宣言をしたとしても、在韓米軍は削減こそすれ撤退しない選択が可能となりました。トランプ大統領は国内世論を抑えるべく先手を打っているように見えます。ただ、北朝鮮は興味深い動きをしています。8月27日に北朝鮮の労働新聞は、この『国防権限法』に少し触れていますが、内容が意味深でした。『在韓米軍は駐留していてもいいから、終戦宣言だけはお願いします』という論調だったのです。これは『在韓米軍は対中国をけん制する意味で駐留していても構わない』とも受け取れます。先の栗氏の愚痴も、この北朝鮮の中国観から来ているのでしょう」(前出・政治ジャーナリスト)
現状、朝鮮半島非核化を巡る協議は、休戦中の朝鮮戦争に「終戦宣言」を出すことが先か、北朝鮮が核・ミサイル放棄に着手することが先かで手詰まり状態になっている。
年内にも行われると囁かれる2回目の米朝会談で、この膠着状態の打開策は見えてくるのだろうか。