ただ、経済の先行き期待が高まる中、日本経済が本当にデフレから脱却していくためには、いまだ大きな壁が立ちはだかっている。需要が拡大できるかだ。需要を拡大するためには、消費者の手取り収入を増やさないといけない。しかし、現実には逆のことが起きてしまう可能性が高い。
来年4月から、消費税が5%から8%に引き上げられる。これだけで3%分の実質減収になるが、インフレ目標の2%が達成されると、合わせて5%も実質所得が減ることになる。
もちろん、その分賃金が上昇すればよいのだが、すでに始まった春闘では、いまのところベースアップの気配もない。安倍総理も、景気が拡大し企業の業績が改善した際には、その成果を労働者にも分配して欲しいと呼びかけているのだが、「一度賃金を上げると元に戻せない」と警戒する企業が、なかなかベースアップに応じないのだ。
このままでは、せっかく戻りかけている景気が再び失速してしまう。しかし、思わぬ所に解決策があった。
実は、東日本大震災の被災地で奮闘する弁護士さんからメールをいただいた。最近、不払いの残業代を請求する訴訟が増えているのだが、これを広げていくことができれば、景気拡大につながるのではないかという提案だった。
実によい方法だ。訴訟をやるべきかどうかは別にして、政府が断固たる決意で「サービス残業は許さない」と宣言する。そうするだけで、消費税増税を吹き飛ばすくらい給料が増えるだろう。長引くデフレの下で人員削減が続き、どの企業でも残された少ない社員のサービス残業が日常化しているからだ。
私の知る限りでも、月間百時間以上のサービス残業をさせている会社は、数え切れないほどある。そこまで行っていなくても、月間平均で10時間ほどのサービス残業を「発掘」できれば、消費税増税とインフレ転換の負担増を十分埋め合わせることができるのだ。
そして、この施策には、法律改正が必要ない。そもそも、賃金も支払わないで残業をさせていること自体が違法行為だからだ。先進国でこんなことをやっているのは、日本だけだろう。だから安倍総理には、一日も早く「残業代支払え」宣言をして欲しい。大企業の場合は、300兆円ともいわれる内部留保があるから、残業代を支払うことくらいどうということはないはずだ。経営が厳しい中小企業には、一定の補助金を支払えばよい。もともと今回の予算編成でも、雇用を増やした企業や賃上げをした企業に対しては支援をすることにしているのだ。
「残業代をきちんと払わないといけないとなったら、企業が従業員を早めに家に帰すようになってしまうのではないか」と思われるかもしれない。しかし、そうなったらもっとよい。日本人の長時間労働が是正され、ワークライフバランスが改善するとともに、余暇消費の拡大を通じて経済成長が確実になるからだ。