それ以外にも、大谷のメジャー挑戦に関しては不透明な部分が多いので、今週は日本のファンが持つ6つの疑問を提示し、それに答えを付けていきたい。
Q1:米国での関心はダルビッシュ有や田中将大の時と比べてどうか?
A:はるかに高い。
米国の主要メディアは今オフのメジャー移籍を見越し、大谷に関する力の入った報道をやるようになった。さらにCBSテレビは看板番組の『60分』で本人のインタビューを交えながら、その怪物ぶりを紹介。発行部数300万部の『スポーツ・イラストレイテッド』誌も取材陣を札幌に派遣して長い特集記事を掲載した。
それ以外にも多くのメディアが大谷にスポットを当てた記事を掲載しており、関心の高さはダルビッシュや田中のときよりはるかに高い。
Q2:ケガが続いたことで大谷の市場価値は下がったか?
A:2〜3割落ちた可能性が高い。
たて続けに故障したことで、大リーグ球団は予想稼働率を下げざるを得ない。2〜3割程度、市場価値が落ちたと見るのが妥当だ。半年くらい前の市場価値は2億ドル(220億円)だったのが、現在は1億5000万ドル(165億円)くらいに落ちた可能性が高い。
Q3:故障の影響で大谷獲得に動く球団は大幅に減るか?
A:減らない。
昨年11月末に成立したMLBの新労使協定で、25歳以下でメジャーに参入する海外の大物選手は「契約金500万ドルまで」という足かせをはめられることになった。それにより大リーグの各球団は、以前なら2億ドル(総契約額)+2000万ドル(ポスティング金)=2億2000万ドル(244億円)必要だった超大型物件を、500万ドル(契約金)+2000万ドル(ポスティング金)=2500万ドル(27億5000万円)という超安値で獲得可能になった。
足首の故障と肉離れによる離脱で市場価値が2〜3割落ちても、超お買い得であることに変わりはない。それゆえ獲得を目指す球団が減ることは考えにくい。
Q4:ポスティング金が下がる可能性は?
A:ない。
ポスティングは最高額で入札した球団が交渉権を得る。最高額が同額になった場合は、その金額で入札したすべてのチームが交渉権を得る。おそらく10を超す球団が上限の2000万ドルで入札し、すべてが交渉権を得るだろう。そんな中、ちょっとケチって1800万ドルで入札し、みすみす世紀のバーゲンセールに参加する道を閉ざすようなバカな球団はないはずだ。
Q5:大谷を投手と打者を兼ねるツーウェイ・プレーヤーとして獲得する球団はあるか?
A:ある。
大リーグ球団はどこも「投手としての大谷」が欲しいのであり、「打者としての大谷」は付け足し程度に考えているだけだ。それでも、打者としても積極的に活用する意向であることをアピールしないと大谷の心を掴むことはできない。その場合、有利なのは金満球団ではなく貧乏球団の方だ。
金満球団の外野陣とDHは、高額年俸の一流選手で占められており、大谷の出場機会を確保することは困難だ。しかし、資金力に乏しい球団は選手層が薄く、それが可能だ。特にDH制のあるア・リーグの球団は、投手大谷を、先発ローテーションで使うことを確約するだけでなく、打者大谷に150打席以上を保証できるので、いちばん大谷の希望に近いオファーを出すことが可能になる。
DH制がないナ・リーグの球団はそこまでおいしい条件を出せないので、外野手として20〜30試合に先発出場させることを契約書に明記することになるだろう。
大谷が受け取る契約金は、どの球団と契約しても500万ドルなので、二刀流を貫ける球団を選択するだろう。そのため、移籍先が弱小球団になる可能性が出てきた。
Q6:大リーグで二刀流を貫く場合、最大のリスク要因は何か?
A:一番怖いのは故意死球。
メジャーには新入りに、大きな顔をさせない文化がある。そのため将来、大打者になりそうな有望新人は、ベテラン投手から挨拶代わりに故意死球を食らうことがよくある。
大谷は超大物新人である上、ベーブ・ルース以来の二刀流に挑戦する選手として脚光を浴びるのは確実。それがベテラン投手たちの強い反感を買うのも必至で、幾度も故意死球を食うことになるだろう。
左打席に入る大谷には、故意死球は投手の生命線である右腕を直撃する。それゆえピッチングに深刻な影響を与える可能性がある。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。