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出てこい! ニッポン埋蔵金 発掘最前線(5)

 1月14日に放送されたテレビ東京『開運!なんでも鑑定団』に登場したオジサンが、誰の話に乗せられて36億円も掛けて山梨の徳川埋蔵金を掘ろうとしているのかはわからないが、画面からはジョークではなく“本気”だということが伝わってきた。非常に危険だ。これまで数えきれないほどの人が被害に遭っているからだ。

 1991年(平成3年)には、不動産業でもうけた4億5千万円を資金に、日本で初めて宝探し専門の会社『未来開発』を立ち上げた吉田錦吾氏が、カネにものを言わせて地下40メートルまで掘っている。数千万掛けても、危なくてそこまでしか進めなかったのだ。
 そのときの裏話だが、吉田氏はボーリング調査の際、ドリルの先に金粉が付着してきたので、がぜん本気になった。だが、筆者の知人は事前に、ある人物が穴の底に金雲母をバラまくのを見ている。
 ただ、この手の話は“事件”にはなりにくい。詐欺であることの証明が難しいし、何よりも出資する本人が話を信じ込んでいれば、らちが明かないからだ。

 話の地、山梨県南巨摩郡増穂町(現在の富士川町)舂米で埋蔵金の発掘が始まったのは、戦前の昭和11年のこと。東京都内に住んでいたK氏の先代が『甲陽協賛会』という組織を結成し、『国秘宝庫の栞』というタイプ印刷の冊子を作った。これをツールとして資金集めを始めたという。
 本気で発掘を実行するつもりだったかどうかはわからないが、実はこの『国秘宝庫の栞』を、筆者はだいぶ前に手に入れている。それに書かれていることは全くのホラ話と言っていいもので、読んでいる方が恥ずかしくなるほどだ。

 同じ徳川埋蔵金でも、群馬県の赤城山周辺に伝わる話とは経緯が随分違う。舂米説は、御用金は二つに分け、一つは上州へ運び、甲州へ運ぶ分は56艘の船で富士川をさかのぼり、鰍沢で陸揚げし、450人の船乗りはすべて毒殺、鰍沢から舂米まで荷物を運んだ馬子たちも馬もろとも殺した。そして、江戸で集めた屈強な男たちを使って、2町(約220メートル)四方から穴をすり鉢状に300尺(約90メートル)掘り下げ、その底に75トンの金塊と慶長大判など総額1千万両を収めて埋め戻し、その作業中、深さ9メートルになったとき、作業員を底に集め、縄梯子を引き上げて大石を落とし、這い上がろうとする者は斬り殺して埋めた。最後に、工事を指揮した旗本たちは、毒酒をあおって人柱となり、埋蔵の秘密を守ったとある。計画段階から終了まで、各地で犠牲になった者の数は4千人に上ったという。

 埋蔵金の工事は秘密裏にやらなければ意味がない。56艘もの川船、大規模な工事、4千人の犠牲者、どれをとっても秘密が守れそうにない要素ばかり。いくら情報の伝達が遅い昔のこととはいえ、これだけのことをやったら大騒ぎになるのは目に見えている。秘密を守るためには「少人数で短時間に終える」これが鉄則ではないだろうか。

 上州埋蔵説について調べると、各地にさまざまな目撃談が残っている。中にはあまりにも目立ちすぎて、陽動作戦ではないかと思えるものもあるが、大人数が長期にわたって動いた形跡は少ない。ところが、富士川の河口から釜無川と笛吹川が出合う鰍沢口にかけては、そういった目撃談は一切ない。
 また、これも肝心なことだが、小栗忠順の子孫は、彼に妾はいなかったと断言するし、研究家たちもそれを支持している。甲州舂米という土地も忠順とは縁もゆかりもない。何ひとつ肯定的な要素がない。100分の1でも可能性があれば、発掘費用のことはさておいてオジサンを応援するのだが、この件については「おやめなさい」と進言するしかない。『鑑定団』の中でオジサンは時価総額160兆円と口走っていたが、14年前からさらに話は膨れ上がっているようだ。

 もし、徳川の埋蔵金そのものに興味があるのなら、群馬県の北部にまだ可能性が残る場所が何カ所か残っているので、教えてあげたいとさえ思う。もちろん、どこをやるにしても費用はさほど掛からない。機械を使わざるを得ない場所もあるが、それでも100万円以内でできるはずだ。
 そういえば、『鑑定団』の司会者の一人である石坂浩二氏が、不思議そうに「なぜ山梨なんですか?」と聞いていた。それもそのはず、石坂氏は今から20年以上前、赤城山麓を掘り返したTBSの特番『徳川埋蔵金大発掘』に深く関わっていた人だから、疑問に思ったのだろう。今でも赤城山麓にあると、信じているのだろうか。
 いやいや、やっぱりあるとしたらもっと北の方でしょう。分散埋蔵したもののうち、まだ少しは残っているはず。大本命は片品村で、今年こそ雪が解けたら決着をつけに行こうと思っている。(完)

トレジャーハンター・八重野充弘
(やえのみつひろ)=1947年熊本市生まれ。日本各地に眠る埋蔵金を求め、全国を駆け回って40年を誇るトレジャーハンターの第一人者。1978年『日本トレジャーハンティングクラブ』を結成し代表を務める。作家・科学ジャーナリスト。

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