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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 論点がずれる再稼働論議

 4月14日、枝野幸男経済産業相は福井県庁で西川一誠知事と会談し、大飯原発3、4号機を再稼働する方針を説明し、理解を求めた。西川知事は回答を留保したものの、「電力消費地の理解に責任を持って対応してもらう必要がある」と述べた。大阪のために一生懸命電力を作っているのに、再稼働で福井県が悪者にされたら、たまったものではないということだろう。
 ところが、橋下徹大阪市長の対応は早かった。大阪維新の会は14日に緊急幹部会を開き、次期総選挙で原発問題を争点に掲げ、民主党と全面対決をする方針を固めたのだ。
 4日前の4月10日に開かれた大阪府市統合本部でほぼ合意された「原発再稼働のための8条件」は、「独立性の高い規制庁の設立」、「事故発生を前提とした防災計画と危機管理体制の構築」「電力需給の徹底検証」「原発から100キロ程度の府県との安全協定締結」「使用済み核燃料の最終処理体制の確立」などとなっており、政府が早急に対応できるはずがないものばかりだった。橋下市長も、そんなことは百も承知だったようで、「8条件なんて国も関電も無視すればいいわけだから。国民が政治的判断をする材料として出している。次の総選挙で国民に判断してもらいたい」と発言している。この時点で再稼働を総選挙の争点にするつもりだったのだ。

 ここで問題なのは、橋下氏はもともと反原発派というわけではなく、選挙で有利になるから再稼働反対を打ち出しているという点だ。
 府市統合本部の再稼働8条件は、今後原子力発電所を日本の基幹電源として使い続けるかどうかを判断する条件としてみれば、極めて妥当なものだ。しかし、再稼働をするかどうかの条件ではない。運転中でも、停止中でも、使用中核燃料が原子炉内にある限り、原発事故のリスクは、ほとんど変わらないからだ。それなのに、その判断を再稼働の問題にすり替え、そして選挙に利用しようとする。

 橋下氏のこうしたやり方に関して、4月15日の毎日新聞が興味深い記事を掲載している。橋下氏が司法修習生だったときの同期生である泉房穂明石市長が次のように語っているのだ。「橋下は破れた革ジャンをタダ同然で仕入れて1着3万とか5万で売って大学を卒業したと言っていた。『破れたやつを売ったらまずいやろ』と言うと『どこが悪いんですか。気付かずに買うのはお人好しや』」と。
 この記事では、弁護士として独立したばかりの橋下氏が公認会計士や税理士の名前がずらりと並んだ『広がる橋下ネットワーク』というパンフレットを司法修習生仲間のところに持ってきたときのエピソードも紹介している。仲間が「橋下すごいなあ。いつの間にこんなネットワーク作ったんだ」。すると橋下氏は「いやあ、全部仮名ですよ」と打ち明けたのだという。

 自分の利益のために利用できるものは、何でも利用する。捕まらなければ何をしてもいい。そうした考え方は、新自由主義者たちに共通する思想だ。
 再稼働の問題でも、自分の天下取りに有利とみるや、原発停止がさも自分の信条のようにみせかけて、上手に活用する。原発停止が後に電気料金値上げや産業空洞化など国民に大きな負担となってのしかかっても構わない。「気付かずに投票するのはお人好しや」という橋下氏のセリフが聞こえてきそうだ。

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