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密着! プロ野球トライアウト 戦力外通告を受けた男たち(1)

 11月12日、『12球団合同トライアウト』が甲子園球場で行われた。今さらだが、このトライアウトで再起のチャンスを掴んだ戦力外選手は極めて少ない。だが、会場が「球児の聖地」となったせいだろう、春、夏の大会でこの地を踏んだ受験選手たちは「懐かしい」との言葉を連発していた。
 「高校時代の甲子園に始まって、甲子園で終わるのかな…」
 今季限りでヤクルトを戦力外となった新垣渚(36)が言った。この男を全国区に押し上げたのは、平成10年、第80回夏の甲子園大会だった。

 「聖地」での開催に力が入ったのか、今年のトライアウトは奪三振ショーで幕を開けた。
 第1組目、寺田哲也投手(前ヤクルト)は柴田講平(前阪神)、川上竜平(前ヤクルト)、内村賢介(前DeNA)の3人と対戦し、3奪三振の快投を見せつけた。1万2000人(主催発表)がどよめく。今年は投手42人、野手23人の計65人が参加。野手陣の中で中軸打者のタイプは青松慶侑(前ロッテ)しかいない。昨年は47人が受験して6人が再起できたが、うち4人は投手だった。投手有利の傾向は否めない。

 「自分の持ち味はアピールできたかな、と。真っ直ぐが自分の持ち味だと思っているし、カウント1ボール1ストライクから始まるので、そんなに球種は投げられないし、とにかく真っ直ぐで」
 こう寺田は言った。寺田は「NPBからのオファーを待ちたい」とも語っていた。スタンドには独立リーグの関係者も多く陣取っていたが、「NPB優先、その後でオファーを出す」という暗黙の申し合わせが独立リーグ側に浸透していた。ドラフト指名前、寺田は新潟、香川と独立リーグを渡り歩いている。NPBにこだわるのは、薄給、かつ厳しい野球環境を体感してきたからだろうか。

 注目の新垣渚は第7組目で登板した。打者3人を凡打に仕留め、首にタオルを掛けたまま球場内の通路まで下がってきた。報道・関係者の受付口そばで家族と合流し、ユニホーム姿で記念写真を撮っていた。
 「今日が最後になっても悔いが残らないよう、思いっ切り投げました。もっとスピードをアピールしたかったけど、この時期に出せるスピードは出したつもり」

 家族での写真撮影は、報道陣も見ていた。
 「家族もいるし、稼がなきゃいけないし、迷惑はかけられない。嫁は『一生懸命やって』と言ってくれて。(バックスクリーンに映る)スピードガンの数字を見て、思ったよりも出ないので悔しかったけど、今の自分ができるピッチングはできたと思う」

 新垣は'02年、自由獲得枠で福岡ダイエーホークス(当時)に入団し、'04年からは3年連続で二桁勝利を達成。しかし、'09年以降は登板数が激減し、'14年にトレードでヤクルトに移籍。'15年には15試合に先発したが、わずか3勝。36歳になった今季はわずか1勝止まり。
 「もし、NPBからの誘いがなかったら?」
 そう質問したら、淡々とした表情で返してきた。
 「引退です。まだ自分に限界は感じていないけど、嫁や家族もいる。今日までは自分の無理を言わせてもらったけど、今月(11月)末かな、(オファーがなかったら)区切りをつけたい」

 同世代の松坂大輔、和田毅(ともにソフトバンク)はまだ現役だ。杉内俊哉(巨人)も故障からの再起を目指し、奮闘している。そのことをぶつけると、彼らから激励のメールが来たことを自ら明かし、こう続けた。
 「そういうのを見ると、まだやりたいなあって思うんだけど…。もうひと花、僕も咲かせたいって思うんだけど、どうなんだろう」
 独立リーグは考えていないという。その独立リーグ関係者が報道陣の囲みから出てきた新垣を捕まえた。旧知の知り合いらしく、「お久しぶり」と握手を交わし、しばし談笑。そして、その関係者が独立リーグでの再起を改めて打診した。

 「アレ、捕れるの、いないでしょ(笑)」
 2人目の対戦打者を追い込んだ後、新垣は“ワンバウンドの暴投”を放った。正確には暴投ではなく、スライダーが鋭角に曲がりすぎて、ワンバウンドしたのだ。新垣は暴投王の汚名も頂戴しているが、その大半はこの鋭く曲がりすぎたスライダーのためだった。NPBの捕手が体を張って止めた“暴投”を、「捕球できるキャッチャーが独立リーグにはいない」と表現し、笑いを誘ったのだ。

 「お疲れ様でした」
 報道陣に晴れがましい笑顔を見せ、新垣は甲子園を後にした。

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