search
とじる
トップ > 社会 > 奈良の神社話その八 大和各地に配された古き水神──桜井市・長谷山口坐神社

奈良の神社話その八 大和各地に配された古き水神──桜井市・長谷山口坐神社

 大和には三つの特徴的な神社が知られる。御県(みあがた)神社、水分(みくまり)神社、山口神社の三つだ。これらの神々には祈念祭(としごいのまつり)で、あまねく祈りが捧げられたという。

 山口神社、もしくは山口坐神社は『延喜式神名帳』には大和各所に14社見え、いずれも大社で、祈念・月次・新嘗の官幣に与る。中でも「延喜式祝詞」の時に称えられるのは飛鳥山口坐、石寸山口、忍坂山口、長谷山口坐、畝傍山口、耳成山口。別途、大和六山口社と呼ばれている。

 その一つ・長谷山口坐神社は長谷山の鎮(しずめ)の社。初瀬川にかかる朱塗りの神河橋の奥、緑に覆われた石段を上り詰めると姿を現す。『紀』には、倭姫命が天照大神を奉じて伊勢へ向かうまでの巡幸譚があるが、当地はその一書に記された元伊勢・巌橿の本宮(いつかしのもとのみや・伊豆加志とも書く)伝承地という。

 祭神は山の神・大山祇(おおやまつみ)神。後に天岩戸神話で名高い天手力雄(あめのたぢからを)神を配祀した。これは元伊勢伝承が語るように、伊勢信仰広まりの影響を受けてのことだろう。しかし、もとは山口に坐す神と山口の水を司る神だったことは、祈雨神として奉祀されていた記録からわかる。

 巌橿の本宮の所在については、同じく伊勢街道沿いに建つ與喜天満(よきてんまん)神社にも伝えられている。また今の神社は天手力雄神社であって、最初の長谷山口坐神社もそちらだとする説もあるようだ。

 深い尊崇を受け、古来「その前をつつしみて物音せで過る」と言い習わしたとか。確かに、この神社には何よりぴんと張りつめた静寂が似合う。深い静けさの中、古き水神は何を思うのだろうか。

(写真「初瀬川にかかる神河橋」)
神社ライター 宮家美樹

関連記事


社会→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

社会→

もっと見る→

注目タグ