金本監督はOBの取材はすべて練習終了後に制限していたのだが、そんなことはお構いなし。
揚げ句は番記者に「左投手が多すぎる、今の球界は左打者が多い、いい商売ができる。オリックスは欲しがるやろ」と耳打ちするパフォーマンス。メディアを使ってトレードを進言し、同時に投手陣の競争をあおるなど、“江夏流”が猛威をふるったのだ。
江夏流は、それだけにとどまらない。専門外の野手にも口出しし、金本監督が打ち出した大和外野手の二塁手コンバートにも反発してみせた。
「センターラインはタイガースの生命線、大和のセンターは強力。二塁には上本(博紀)、西岡(剛)もいる」
サングラス姿で視察を続ける江夏氏の相次ぐ現場介入で、チームは大混乱に陥った。
「大和自身は監督のコンバート案を好意的にとらえ、二塁手転向に真剣に取り組んでいた。今季の外野陣は、江越大賀、横田慎太郎、ドラ1ルーキーの高山俊(明大)など打撃が売りの若手が台頭し、3割近く打たないと大和の定位置確保は難しい。一方、二遊間は今年35歳を迎える鳥谷敬の守備範囲が狭くなっており、出場機会が見込める。そこまで配慮したうえで金本監督は大和の二塁転向を打ち出したのですが、思わぬところから圧力がかかった。これには選手たちも戸惑っています」(トラ番記者)
もっとも、江夏氏の狙いは「次期掛布政権」への橋頭保にある。生粋のOB監督が誕生すれば、阪神OBはコーチの重職、フロント幹部にありつける。川藤会長の求心力も一層高まる。
本来なら致命傷ともいえる「江夏氏の覚醒剤所持事件」だが、意外なことに、清原容疑者逮捕が逆風どころか、追い風になっているという。
江夏氏は'93年、覚醒剤所持の現行犯で逮捕され、実刑判決を受けた。大量所持だったため、初犯ながら懲役2年4カ月の実刑判決を受け、静岡刑務所に服役。しかし、清原容疑者とは違い、野球に真摯に取り組んできたことから野村克也、衣笠祥雄、江本孟紀氏らが尽力し、出所後は野球解説者、評論家に復帰した。
刑務所で規則に従って生活したことで肉体的にも精神的にも健全さを取り戻し、現役時代に獲得したトロフィーなどをすべて捨て去って一からの出直しを図った。清原容疑者に求められる姿勢を、江夏氏はすでに体現してみせている。
「江夏氏が野球を通してしっかり更生し、昨年から阪神球団に臨時コーチを託されるまで信頼を回復したことで、球界には清原容疑者を更生させるお手本にしようという動きがある。江夏氏を美化することで事件の収拾を図り、プロ野球人気の回復を築きたいのです」(球界の重鎮解説者)
上がりに上がる江夏氏の内部評価に対し、金本人気は凪状態。初年度に躓けば、「一、二軍の監督交代」の声まで囁かれている。