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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第301回 欧州の姿から見える日本の未来

 安倍政権は’18年秋の臨時国会で、移民法(出入国管理法改正)、コンセッション方式の水道民営化(水道法改正)、企業の漁業参入促進を目的とした漁業法改正など、一連の「グローバリズム政策」を通した。結果、我が国の未来がほぼ確定した。

 日本の未来は、いかなる姿を持つのか。緊縮財政、規制緩和、自由貿易といった政策を、日本に先行して推進してきた先進諸国、すなわち欧州諸国を見ればよく分かる。

 フランスでは「反グローバリズム」のデモ(※反「燃料税」ではない)が続いている。フランスは、日米英独とは異なり、失業率が9%前後で高止まりしている。

 しかも、フランスの10年物国債金利は0・68%と史上最低の水準に低迷。インフレ率も2%を切っている。

 ならば、失業率が改善するまで国債を発行し、財政を拡大すればいいのだが、EU加盟国のフランスは、EUの財政規律ルールを守らなければならない。

 というわけで、マクロン政権は、
「緊縮財政により財政健全化を達成しつつ、失業率を改善するために必要なのは、労働規制の緩和である」
 と、集団解雇の手続き簡素化、雇用維持協定の緩和、不当解雇の際の補償金額の「上限」を設定、解雇不服申し立ての「期間短縮」など、企業に有利な労働規制の緩和が行われた。

 加えて、年金受給年齢引き上げ(2023年までに67歳)、社会保障増税、たばこ増税、住宅手当の削減などの緊縮財政を堅持し、移民制限はなし。同時に富裕層や企業の減税を行うという「まるで、どこかで聞いた話」の政策ばかりが推進されたのだ。

 安倍政権そのままの「グローバリズムのトリニティ(緊縮財政+規制緩和+自由貿易)」を推進し、国民が怒りに耐えかねたというのが、今回の「反グローバリズム」デモの本質なのである。

 フランスの反グローバリズム運動は、運転手が車内に備えることを義務付けられている「黄色いベスト」をデモ参加者が着込んでいることから、「黄色いベスト運動」と呼ばれている。

 12月10日、マクロン大統領は、黄色いベスト運動の高まりを受け、最低賃金引き上げや年金生活者を対象とした減税などの対策を発表。結果的に、フランスの財政赤字がEUのルール(対GDP比3%)を超す可能性が出てきた。

 すると、EUから「予算を削れ」と圧力を受けているイタリアのディマイオ副首相が、
「財政赤字の対GDP比率に関する規則がイタリアにとって有効であるならば、それらがマクロン大統領にとっても有効であることを期待する」
 と言い出した。

 ディマイオ副首相は、フランスもまたイタリア同様に、EUの財政規律を脅かしているとし、EUが両国を同等に扱うことを要求したわけだ。イタリアの思惑は、フランスを巻き込むことにより、EUの財政主権に対する侵害の影響を最小化することだろう。

 もっとも、フランスもイタリアも、EUという「グローバリズムの国際協定」に加盟している限り、積極的な財政拡大に打って出ることはできない。さらに、両国ともにユーロ加盟であるため、金融の主権もない。EUやユーロは国家を縛る「呪縛」だ。

 ところで、いち早くEUという「呪縛」から抜け出すことを決意したイギリスはどうなっているか。イギリスとEUが11月に合意した「ブレグジット(イギリスのEUからの離脱)」協定案について、英国内での反発が強く、メイ首相が窮地に陥っている。

 現在のイギリスとEUとの離脱案は、イギリスが今後もEUのルール、つまりは「呪縛」に縛られる可能性を秘めており、離脱派が反発しているのだ。

 最大の問題は、アイルランド国境である。協定案では、連合王国(イギリス)がEUから離脱しても、北アイルランドとアイルランド共和国との国境は、これまで通り、ヒトやモノが「自由」に行き交うことになっている。その場合、北アイルランドはEUの関税同盟に残留することになる。
 となると、連合王国の他の地方、例えば、スコットランドやウェールズにとっては、
「なぜ、北アイルランドだけが特別扱いなのだ」
 という話になってしまい、さらには北アイルランドの連合王国からの「独立」といった未来すら見え隠れする。

 結局、まずは連合王国が北アイルランドを含めEUから完全離脱し、関税同盟からも抜ける。その上で、一般的なWTOルールに則り、EUとの関係を築くしかない。

 その場合、アイルランド共和国と北アイルランドとの間に「国境」が復活し、ヒトの移動の際に「入国審査」が、モノの移動の際には「関税」が必要ということになるが、物理的に不可能だ。

 ならば、どうしたらいいのだ、と思われただろうが、どうにもならない。

 一度、EUのような国際協定に入ると、原状復帰は至難の業という現実を、ブレグジットはまざまざと見せつけている。

 ところで、EUの盟主たるドイツでは、メルケル首相が与党CDUの党首選再出馬を断念。新党首となったアンネグレート・クランプカレンバウアー氏は、メルケル式の移民政策を見直す考えを表明した。

 クランプカレンバウアー党首は、比較的移民に「穏健」だが、それでも移民に対するドイツ語の学習義務付けや、犯罪歴のある移民追放を主張している。移民の「ドイツ化」を推進すると宣言したわけだ。

 欧州を席巻した「多文化共生主義」は、クランプカレンバウアー党首誕生により、終焉を迎えることになりそうだ。

 この状況で、我が国は多文化共生的な移民受入に舵を切った。現在の欧州諸国の苦難、具体的には「緊縮財政」「国際協定」「移民受入」といったグローバリズム政策の後始末に苦しむ姿こそが、まさに「日本の未来」なのだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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