『生きるということ』(黒井千次/河出書房新社 798円)
誰もがプロフェッショナルな画家やイラストレーターになれるわけではない。ではあるけれど、趣味で絵を描くというのも楽しいものだ。お金をもらうために描くのではなく、ただ描くことで充実した気分になりたい、という素直な態度で筆を動かす。これは文章にも当てはまることだ。他人に読ませる目的は持たず、短いエッセー風の文章をつれづれなる気分でノートに書くか、パソコンで打つ。とはいえ、全く文章についての素養がなければ書くことはできない。何か勉強になる本はないだろうか、と思ったときにぜひ手に取っていただきたいのが本書『生きるということ』だ。
黒井千次は日本文学史において、とても重要な作家である。第2次大戦終結後、活発に小説を発表し始めた吉行淳之介、遠藤周作らが文芸評論家から〈第三の新人〉という名称でカテゴライズされたのだけれど、黒井はその後に出てきた作家、たとえば後藤明生、小川国夫らとともに〈内向の世代〉一派の一人としてやはり評論家から高い支持を受けたのだった。1932年=昭和7年生まれの人である。大ベテランの作家が日々、思ったことをつづったエッセーが満載の本だ。
散歩のときにふと思ったこと、テレビを見ていて感じたこと等々がそれぞれコンパクトな文章にまとまっている。名文家の文章を参考にして、独自のエッセーを書いてみたいものだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『嘘の見抜き方』(若狭勝/新潮新書・714円)
特捜部直伝! “プロの技”教えます−−。
「取り調べのプロ」は嘘をどう崩すのか? 相手の目を見ず質問する、嘘を言わずにカマをかける、“話の筋”を読む…。検事経験26年、テレビでもおなじみの元特捜部検事が、そのテクニックを徹底解説する1冊。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
キャンピングカーが団塊世代のシニア層を中心に人気上昇中らしい。大型トレーラーを想像しがちだが、低価格、駐車場を選ばないなどのワンボックスや軽自動車タイプの車種も多く、そうした点が注目を浴びている理由。
『AUTO CAMPER』(八重洲出版/680円)を読むと、さまざまな車種が紹介されており、運転してキャンプに出掛けてみたい、そんな夢をかき立てられる。
車の紹介の他にも、旅のお供であるフリーズドライ食品の最新情報や、便利なソーラーシステム等の備品、車中泊に使える「道の駅」の特集など、充実した内容。すでに趣味としている方から、これからキャンピングカーを購入し、アウトドアを満喫してみたいという初心者まで楽しく読める。
余暇の過ごし方にも、少し変わった趣向が求められる時代。敷居が高いと思われていたキャンピングカーを、意外と身近に感じることができるだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意