「8月27日の4度目となる訪朝に向け、ポンペオ国務長官が米国を飛び立つ数時間前に金正恩党委員長が送った書簡がトランプ大統領を怒らせました。この書簡はポンペオ長官のカウンターパートである金英哲党副委員長からのもので、『非核化が進展しないのは、米国が平和協定の締結に向けて取り組まないからだ』と米国を糾弾、非核化交渉は『再び危機に瀕し、瓦解の恐れもある』という内容でした。これを知ったトランプ大統領は、急きょポンペオ訪朝中止を発表したのです」(国際ジャーナリスト)
先頃、国際原子力機関が北朝鮮について「核開発計画を継続し、さらに発展させている」との報告書をまとめている。また米国の北朝鮮分析サイト『38ノース』も、ミサイル発射場で進められていた一部施設の解体作業がストップしていると公表した。
つまり北朝鮮は“やっているふり”をしながら非核化をうまく回避し、その見返りとして朝鮮戦争の終戦宣言、平和協定締結や制裁の緩和を得ようとムシのいいことばかり画策しているのである。
これに対し中間選挙を控えたトランプ大統領も、北朝鮮や中国の姿勢を表向き評価することで、非核化の進展がないことを隠そうとしてきた。
しかし、堪忍袋の緒が切れたトランプ大統領は、6月の米朝首脳会談後に凍結していた米韓合同軍事演習について「もし再開すれば、かつてない規模になる」と強調し、再び強硬姿勢に出てきた。
「6月の米朝会談で正恩委員長は『完全な非核化』を約束しており、米国から見れば『彼はウソツキだ!』ということになります。しかし、米ニュースサイト『Vox』(8月29日配信)によると、トランプ大統領は米朝会談後、ただちに終戦宣言に署名すると口頭で約束していたというのです。とはいえ、米国のハリス新駐韓大使と金英哲副委員長が8月12日に板門店で接触した際、米側は非核化を先行して進めるよう迫っています。中間選挙後、米政権の北非核化への関心は薄れることが予想され、そうなれば北は核開発を完成させる時間稼ぎに利用するでしょう。相手の事情を巧みに利用し、最終的には核保有国として米国と対等な立場で核軍縮交渉に臨もうとしているとも考えられ、非核化の不履行がまかり通る恐れが出てきているのです。ハリス大使は、こうした事態を招かないようにクギを刺したのです」(同)
米ワシントン・ポスト紙は8月27日、複数の米政府当局者の話として、マティス国防長官、ボルトン安全保障担当補佐官の両氏が終戦宣言に反対していると伝えている。
政権中枢や米議会が北朝鮮の非核化の意志を強く疑っている中では、体制の保証につながる終戦宣言という“果実”を食すのは容易ではない。
そんな最中、8月28日付のワシントン・ポスト電子版が、7月に日朝当局者がベトナムで極秘会談を行ったと報じた。
拉致問題についても話し合った模様で、翌29日に記者の質問に答えた菅義偉官房長官は会談を否定しなかった。
同紙によると、日本側は内閣情報調査室トップの北村滋内閣情報官、北は“北版CIA”ともいえる工作機関統一戦線部の金聖恵策略室長がお互い顔を突き合わせたという。
「米韓との関係が悪くなると日本に擦り寄ってくるのが、過去の北朝鮮の常套手段です。正恩委員長は米国の態度硬化に頭が痛い。そこで拉致問題を材料に日本の対北朝鮮姿勢を軟化させ、“核隠し”の目くらましにしようとしているのです。さらに北朝鮮は、あわよくば、日本から戦後処理のための資金を得ることで、経済の建て直しを図ろうとしている。制裁によって貿易や投資が抑えられている中で、日本を突破口にしようとしているわけです。韓国の中央銀行に当たる韓国銀行が去る7月20日に公表した推計値によると、昨年の北朝鮮の国内総生産は前年比3.5%減少し、国際的な制裁の影響により1997年以来の大幅なマイナス成長を記録したほどです」(北朝鮮ウオッチャー)
北朝鮮は8月26日、西部の南浦を訪れた際に拘束した日本人旅行者の男性を「人道主義の原則により寛大に許すことにした」として国外に追放している。地球上で最も人道主義に縁遠い国が突然、“人道の看板”を掲げて解放するのには、何らかの意図や目的があってのことだ。
「男性の拘束をわざわざ日本側に通達してきたのは、日本側を交渉のテーブルに着かせようとする“誘い水”の可能性があります。非核化問題で制裁強硬派の日本に制裁解除を強く要請するつもりなのか、核廃絶隠しの時間稼ぎか、あるいは米国を『抜け駆けは許さないぞ』と憤怒させ、日米の離反を図るつもりなのかもしれません」(同)
6月までの間に、中国の習近平国家主席、韓国の文在寅大統領、ロシアのラブロフ外相、そして、米トランプ大統領が正恩委員長と会談した。6カ国協議構成国でトップや外相が会えていないのは日本だけだ。
拉致問題の解決を最重要課題と位置付けてきた安倍政権は、果たして、“誘い水”の日朝首脳会談実現に乗っかるのだろうか。