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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 「右翼」の時代がやってきた

 解散総選挙は、自公が衆議院の3分の2を超える325議席を獲得する圧勝に終わった。政権公約を達成できなかった民主党に対して国民の厳しい審判が下った結果とされている。しかし、この選挙から見て取れるもうひとつの重要な変化がある。それは、日本社会の右傾化だ。中国や韓国のメディアは、日本の右傾化を大きく報じて、危機感を高めている。実は、右傾化を懸念しているのは、欧米のメディアも同じだ。しかも、その感覚は、日本人とはずいぶん異なっている。
 たとえば、大躍進を遂げた日本維新の会のことを英字新聞は、ライトウイング・パーティー、すなわち右翼政党と書いている。日本では改革政党の位置づけだが、案外、海外の評価の方が正しいのかもしれない。代表は言わずとしれたタカ派の石原慎太郎氏だし、日本維新の会の発足記念パーティーは、日の丸を掲げ、一糸乱れず国歌を斉唱することから始まっているのだ。

 右傾化は、政党別議席数の変化をみれば明らかだ。右派から見ると、自民党は改選前の118議席から294議席となり、日本維新の会は11議席から54議席へと大幅に伸ばしている。
 一方で、リベラル勢力をみると、日本未来の党が61議席から9議席に激減、新党大地は3議席から1議席に、そして社民党は5議席から2議席に減った。右派の圧勝なのだ。
 実は、右傾化は政党内でも起きている。惨敗した民主党の中でも、前原誠司、長島昭久といったタカ派の議員が当選する一方で、リベラル派の鉢呂吉雄、横光克彦、川内博史、末松義規といった議員が議席を失った。圧勝した自民党の中でも、代表的なリベラル派である加藤紘一元幹事長は落選しているのだ。

 なぜこれだけ右傾化が進んだのか。私は15年続いたデフレが原因だと考えている。1930年代は、世界恐慌後の世界デフレで幕を開けた。デフレによって深刻な不況が訪れたが、その閉塞感のなかで、ヒトラーやムッソリーニやスターリンといった独裁者たちが権勢を拡大していった。だが、それを支えたのは国民の圧倒的な支持だった。
 行き詰まって身動きが取れなくなったときに、人間は白馬の王子様を求めてしまう。痛い目に遭っている人ほど、強いリーダーを求めてしまうのだ。また、そのリーダーが当初は、実際に経済を立て直すことも多い。
 たとえば、世界恐慌によるデフレで、失業率が40%に達していたドイツは、ヒトラー内閣成立4年後には、ほぼ完全雇用を達成している。またヒトラーは、アウトバーンという高速道路を整備し、国民車構想を進めるなど、先進的で正しい産業政策を遂行していた。しかし、ヒトラーは次第に独裁者としての表情を強めていく。そして、国中を戦争に巻き込み、ドイツを焼け野原にしてしまったのだ。

 アベノミックスと呼ばれる安倍総裁の経済政策でデフレが終結し、日本の景気は良くなるだろう。しかし、その成果は金持ちや大企業に独占されて、庶民の暮らしは良くならない。小泉構造改革時代と一緒だ。
 そのとき一番危険なのは、国民がさらに強いリーダーを求めてしまうことだ。国中が焼け野原になってから気付いても遅いということは、70年前に世界が学んだ最大の教訓なのだ。

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