昔、バンドマンと付き合っていた時のことです。彼はとにかく奇行が目立つ人で、ついていけないことも多々ありました。例えば、外を2人で歩いていた時、犬の散歩をしている人とすれ違ったんです。普通だと「かわいいね〜」と感想を言って終わるか、飼い主に挨拶して軽く頭を撫でるぐらいだと思うのですが、彼は可愛がり方が異常でした。声を上げて笑いながら、犬の全身を撫でるだけでなく、犬の顔に激しく頰ずりまでするんです。自分の犬ならまだしも、他人の犬ですからね。相手の飼い主は、そんな彼を見て完全に引いていたので、私が急いで引き離しました。
この他にもある夜、突然「すごい小説ができた!」と言って電話が掛かってきたことがありました。電話の向こうの彼はとにかく興奮していて、「芥川賞を絶対に獲れる!」「今すぐに見てほしい」と言うのです。もう深夜だったので、私は今度見ると伝えたのですが、全く引き下がりません。あまりにしつこかったため、仕方なくタクシーで向かいました。インターホンを鳴らすと、彼は目を大きく開いた異様な表情で私を出迎え、すぐに文章を書き殴った紙を何枚も見せてききました。しかしその内容は、完全に意味不明。前後の表現が繋がっておらず、内容が全然理解できないのです。それでも彼は、真剣にすごいものができたと錯覚しているようでした。その頃からですね、彼がヤバイ薬でもやっているんじゃないかと思い始めたのは。
別れることを決意したのは、それから数日後。彼の家に遊びに行った時です。出されたお酒を飲んで、しばらくすると急に目の前の景色がグルグルと回り始めたんです。その後は、吐き気が止まらなくなり、トイレから出られなくなる事態となりました。彼に「おかしなもの入れた?」と聞いても、とぼけるばかり。もうこんな人とは一緒にいられないと思い、その場で絶縁しました。
写真・Sasha the Okay Photographer