今回の故障が厄介なのは、早期の復帰を望めそうもないことだ。
上原は現在、PRP療法(多血小板血漿療法)による治療を受けているが、この療法は自己修復力を高めて回復を図るものなので時間がかかる。一昨年ヒジを痛めた田中将大がこの療法で回復を図った際は、復帰まで2カ月半かかった。上原もそれくらいかかると思われるが、それだと復帰できるのはシーズン終了後の10月になってしまう。
これは「レッドソックス上原浩治」が事実上終わってしまったことを意味する。
今季は2年契約の最終年。42歳(来年4月)になることや成績の急落を考えれば、レ軍が上原を残留させる可能性はほとんどない。
今後、考えられるシナリオは、次の三つだ。
一つは、メジャーの他球団と年俸100〜200万ドルくらいで契約するシナリオだ。
上原は本拠地球場が狭いレ軍では一発を食うリスクが高くなるが、本拠地球場の広いチームに行けば、そのリスクが大幅に減る。一方で三振をハイペースで奪う能力は健在なので、セットアッパーで使えると評価して獲得に乗り出すチームが現れる可能性は十分ある。ジャイアンツ、マーリンズ、アスレチックスなどは本拠地球場が広いうえ、中継ぎ陣がコマ不足なので獲得に乗り出す可能性がある。
上原にとってモデルケースとなるのが斎藤隆だ。
斎藤はドジャースのクローザーを務めた実績がある上、伝家の宝刀スライダーが40歳を超えてもフルに機能したため、42歳になってもダイヤモンドバックスから1年175万ドルのオファーが来て投げ続けた。上原も名門球団のクローザーを務めた輝かしい実績がある上、伝家の宝刀スプリッターで三振を大量生産できるので、本人が望めば来季まで投げて、メジャー人生を締めくくることは十分可能なシナリオである。
二つ目のシナリオは日本球界への復帰だ。
古巣巨人はセットアッパーコンビ(マシソン、山口鉄也)の一角、山口が用をなさなくなっているので、左打者に強いセットアッパーの補強が急務になっている。フォークボールを武器にする上原は右打者より左打者に強く、そのニーズにフィットしている。
古巣復帰となれば黒田博樹のカープ復帰のような熱狂が巻き起こると思われるので、営業面でのプラスも大きい。上原自身も、巨人のユニホームを着て野球人生を終わらせたいという気持ちがあると思うので、とんとん拍子に話が進む可能性がある。
三つ目は今季限りで引退というシナリオだ。
上原は5月以降、一発を立て続けに食うようになり、思いつめた表情で首をかしげるシーンが多くなった。今回DL入りする原因となった胸筋の炎症も長引く可能性があるので、シーズン終了後、レ軍のユニホームで引退の記者会見に臨む可能性は大いにある。
田澤純一はこれまで、5月までは安定した投球を見せるのに、6、7月に失点が多くなるというパターンを繰り返してきた。今季も序盤は好調だったが、6月に入って失投が増え防御率が右肩上がりに上昇。7月初旬には3点代後半まで悪化した。その挙げ句、7月5日に「肩関節の痛み」を理由にDL入りしてしまった。
しかし、このDL入りは、球団首脳が田澤にプレゼントした夏休みだった。
田澤の肩関節の痛みは慢性的なもので、投げようと思えば投げられた。それなのに、球団首脳があえて休ませることにしたのは、このまま使い続けると昨季と同様、立ち直れないままどんどん悪くなり、メルトダウンする可能性があると判断したからだ。
この15日間のDL入りは格好の肩休め、肘休めになったようで、7月22日に復帰後は制球が安定。フォーシームのキレも甦り、セットアッパーとしてフルに機能するようになった。
来季以降を考えると、これは大きな意味を持つ。
田澤は今シーズン中にFA権を取得するので、今季いい働きをすればオフにFAとなり3年契約をゲットできる。だが、働きが悪ければ商品価値を上げることができず、1年契約に甘んじないといけない。
6月から7月初旬にかけて田澤は失点が多くなった上、DL入りも経験したので、商品価値がかなり下がっていた。しかし、復帰後、セットアッパーとしてフルに機能しているため、商品価値が再上昇。現状の防御率(7月28日現在、3.31)を維持できれば、複数年契約をゲットできる可能性が高くなった。もし、防御率を2点台中ごろまで戻すことができれば、3年契約も可能になるだろう。
それもこれも、8月と9月の働き次第なので、田澤は投手人生で最大の踏ん張りどころを迎えたといっても過言ではない。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。