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本好きオヤジの幸せ本棚(75)

◎オヤジ人生にプラス1のこの1冊
『ブラックライダー』(東山彰良/新潮社 2730円)

 今年8月に亡くなったアメリカの作家エルモア・レナードは、個性豊かな悪党たちが絡み合い、含蓄ある会話の応酬を繰り広げる犯罪小説を得意としていた。多くの作家が影響を受けているが、東山彰良もその一人である。2003年に刊行されたデビュー作『逃亡作法 TURD ON THE RUN』では、近未来を舞台にして服役囚たちの脱獄劇を描いた。'09年に大藪春彦賞を受賞した『路傍』でその会話の内容に磨きがかかり、一種、哲学的な境地にまで達している。
 本書『ブラックライダー』はデビュー作同様SF仕立てになっており、そしてよりいっそう思想が深まっている。“六・一六”と呼ばれる災害をきっかけに世界中の人口が減り、停滞してしまった食料の生産を補うかのように人間同士が互いを食べ合う時代が到来、と何ともダークな設定が成されているのだ。しかもここで終わらないのが本作の凝っているところで、牛と人間の遺伝子を結合させた新種の食用牛が出回るようになった、そして人肉を食することを禁じる法律ができた、というように、おどろおどろしい演出を徹底させている。
 これは絶望の未来図であり、ゆえに登場人物たちの道徳観も歪んでいる。懸賞金目当ての追跡劇が物語の主軸で、その凄まじいバイオレンスの連続には度肝を抜かれる。絶望に陥ったときの人間の本性を描く作者の筆致は深い。
(中辻理夫/文芸評論家)

◎気になる新刊
『スポーツの品格』(桑田真澄・佐山和夫/集英社新書・714円)

 社会問題となったスポーツ指導における体罰について、桑田氏は「勉強不足による安易な指導方法で決して強くならない」と言っていた。スポーツ本来の姿を取り戻すにはどうすればいいのか。スポーツ史研究の第一人者とともに提言する。

◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり

 『まんがタイム』といえば、植田まさし著「おとぼけ課長」などを連載している4コマ漫画専門誌としてご存じの読者も多いだろう。その雑誌の姉妹誌として、“萌え漫画”を好む若い世代向けに刊行されているのが、『まんがタイムきらら』(芳文社/350円)。もちろん、こちらも4コマ専門誌だ。
 現在の看板作品は「ゆゆ式」(三上小又著)という学園モノ。3人のJKを主人公に高校生活をまったりと描き、今年テレビアニメ化もされている。登場人物たちは情報処理部というパソコン部に所属し、気になった単語をネット検索するだけの課外活動。検索した後は、ホワイトボードに「まとめ」を書き、4コマ終了というパターン。ユルい日常がなんとも今風で、“萌え漫画”といっても、特に誇張した巨乳が描かれているわけでもない。等身大のイマドキ女子高生たちの生態が微笑ましい作品が現在の同誌の主流らしく、オジサン世代には新鮮に映る。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
 ※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意

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